浮遊戦艦の中で295


 リゲルデは、恐る恐る歩みを進めた。ここで何かに出くわしても、この状態であれば抵抗できる確率は皆無に限りなく近い。どう考えても身を守れる保証などない。

 だが、乗り掛かった舟。いや、好意を寄せつつある女に対する好奇の矛先が本能を突き動かすのだ。

 リゲルデは、歩みを止めるどころか、いつしか歩幅が大きくなっていた。杖を突くのと同時に身体が大きく前に出る。そして体が大きく前に出るのと同時に、杖が地面を激しくかき出す。その魂もを揺り動かす大胆な繰り返しが爆発のような土煙を上げ、闇に包まれた洞窟の中に足音を木霊させるのだ。

 しかしあまりの勢いに、彼は足元の注意が散漫になり、やがて何か大きな物につまづいて大きく前のめりに転倒した。

 それこそ土煙を大きく上げ、平たんに均された地面に身体を強く叩きつけられ、一瞬呼吸が出来なくなった。

「あ、うう……」

 リゲルデはうめきながら、それでも松葉づえを手繰り要せよう必死で闇の中に手を伸ばした。口にくわえたペンライトは、勢いで随分前に飛んで行ってしまっている。どうにかあそこまでたどり着かねば、光源となるものはどこにも存在しない。そこに行くまでには、先ずは松葉づえを拾わねばならないのだ。

「こ、これか……?」

 彼は自由の利かぬ身体で、どうにか匍匐前進ほふくぜんしんを行いながら、目当てのそれらしき物に手を掛けた。硬くて長細い感触だった。

 しかし、何かが違う。シモーヌが巨木を削り出して作ってくれた、あの頑強な松葉づえとはどこかが違う。

 しかし彼は必至だった。この先の秘密を知るためには、どうしても松葉づえが必要だ。

 彼は、真っ暗闇の中であるがゆえに、その長細い物を両手でまさぐった。

 しかし、そのとき、

「おうっ……!? もしかしてこれは!?」

 

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