浮遊戦艦の中で264


 リゲルデは、鼻息も荒くアクセルペダルを踏む。彼は腐っても戦士の端くれ。オスの端くれ。刹那の戦いに勝機を見い出し、自らの目的に花を添える相手に立ち向かう時ほど興奮するものである。

「覚悟だ、デカ物よ!! そんなポンコツ機体で、この俺に襲い掛かって来たのがお前の愚かさなのだよ!!」

 言って、リゲルデはレーザーソードを突き出して吶喊とっかんする。謎の機体がまだ再起動出来ないことをいいことに、狙いをコックピットであろう場所一点に絞った。猛スピードで体当たりをぶちかまそうというのだ。

 その時――、

「ぐおっ……!! な、なんだ!?」

 真横から凄まじい衝撃を受けた。まるで大爆発を起こしたときのような強い衝撃波だ。

 その衝撃で白蓮改の軌道は大きなずれを生じ、勢いのまま正面にある巨木の幹へと追い込まれる。

「グッ、ば、馬鹿な……。い、いかん、このままでは……」

 瞬間、時速百八十キロメートルにも及ぶ突進力で、機体はバラバラになってしまう。もし機体がバラバラになってしまわずとも、リゲルデの身体が衝撃で押しつぶされてしまう。

 リゲルデは、慌てて逆噴射のアクセルを踏み込んだ。非常後退時の強烈なホバーなだけに、背骨から内臓に極端な重荷重がのしかかる。

「カグゥ……」

 悲鳴を上げようにも、肺が押しつぶされて息が出来ない。心拍が有事であるだけに、通常の何倍もの酸素を必要とする。このときに呼吸が止められてしまうのは地獄そのものである。

 刹那、リゲルデの視界は真っ白になった。否、真っ白と言うべきか意識そのものが飛んだ。そしてあらぬ浮遊感を覚えた。

(ああ、シャルロッテ……)




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