浮遊戦艦の中で265



 その刹那、シャルロッテの幻影が脳裏をよぎる。

(中佐……。リゲルデ様……。いつでもわたしはあなた様のそばに居ます……)

 シャ、シャルロッテ――。

 リゲルデは、藁をもつかむように彼女に向かって手を伸ばした。すると、グイと軌道が変わり、勢いで彼の意識が戻る。

「シャ、シャルロッテ……。お前はこの俺に、まだ生きよと……」

 彼の差し伸べた手が操縦桿を握り、無為に軌道を変えたのだ。

 リゲルデの白蓮改は、寸でのところで巨木の脅威から逃れた。右肩のアーマーに亀裂が入ったものの、それ以外に何の損傷もない。

「い、一体何だったのだ、あの衝撃は……!?」

 リゲルデが辺りを伺い、そしてモニターを確認した時には、謎の大型の機体はまだ再起動すら出来ていない始末だった。

 ところが、この時点でいきなりコックピット内に警告音が鳴り響く。

「いきなり何だ!? 反応が遅いぞ……」

 彼はあらゆる計器に目をやり、現在の状況を確認した。確かにセンサーの誤認ではない。事実、この少し前に正体不明の攻撃を受けたばかりだ。

「敵がもう一体居る? ええい、感知機能ですらポンコツだから……!!」

 言って、リゲルデは計器盤を叩いて機体を巨木の根本に移動させた。こうすることで、背中からの攻撃を受け難くさせたのだ。

「恐れ入ったな。敵が一体だと思い込んだのが俺のミスだ。だが、あのデカ物以外に何が居ると言うのだ……?」

 あの時リゲルデは、謎の機体に向かって突進した。その瞬発力は並大抵の力ではない。旧式の白蓮改だとは言え、瞬間的に時速二百キロメートル近くも走る機体相手に気配すら感じさせなかった。

「どういうことだ、こんな攻撃を仕掛けて来る相手とは? あの鈍臭い機体とはまるで対極を成す……。こいつも俺の命だけを狙っているというのか……」


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