浮遊戦艦の中で255


 剣崎はこの時、なぜこの世界に混沌がまかり通るのかを一瞬で理解した。

 答えは一つ。それは、

「なるほど。あの暴君シュンマッハも自分自身との対峙によって生き残った唯一の一人が革命を起こした……そいうわけだな。つまりはこの俺も、ぶち当たる他の世界の自分自身と生き残りをかけて対峙せねばならんというわけか……。それがこのヴェルデムンド世界に寄せ集められた真実というわけだな……」

 この考えは的を射ていたのである。これが同一人物を同一の世界に引き寄せた最大の理由である。

『そうだ、他の世界の私自身よ。ここには誰も彼もが寄せ集められたわけではない。君のように、大勢の人々に影響を及ぼすことが認められる存在だけが集められたのだ。良いか、他の世界の私自身よ。我々の最終的な目的は、我々自身との闘いだ。心しておくが良い……』

 言って、声の主は言葉を止めた。彼ら凶獣……いや、凶獣の進化した人々は皆、ウィク・ヴィクセンヌの前に綺麗な陣を取っていた。

 だが、陣と言っても好戦的なものではない。彼らは対等の証しを示すべく、大きな羽根を折りたたんで一様に天を仰いでいる。

「なるほど。彼らは俺たちと共闘の道を選んだというわけだ。ミコナス准尉。直ちに正面のハッチを開け。そこで俺が奴らに直接会って真偽を確かめる。上層部には、事後報告で何とか収めるようにしてくれたまえ」

 剣崎の決意は変わらなかった。ここまで来て退き下がるという選択はない。この世界の真実をその目で確かめたい気持ちが先んじているからだ。




 傷心のリゲルデは、新たに配属が決められた第十五守備防衛隊のあるノイマンブリッジ外れのアルファへレナス駐屯基地へと向かっている最中であった。

 彼は、暴君であるシュンマッハの手配によって、下士官にまで降格を余儀なくされたため、軍の命令には逆らえず、自らの意にそぐわなくとも移動しなければならないのだ。

 アルファへレナス駐屯基地は僻地にある。いくらペルゼデールネイションの首都に近いノイマンブリッジの外れにあると言えども、そこへ行くには琵琶湖ほどもあろうかという大湿地帯を三度も越えなければならない。

 空も飛べぬ、陸路もままならないそんな中を、たった一機のフェイズウォーカーのみで移動するには、余程の腕と度胸とを持ち合わせていなければ、こんな目的地へと辿り着かない。

「フッ、これは実際の意味では処刑を意味するということだ……。世間の言う左遷だ降格だなどと言うのは、あの陰湿で気の小さいシュンマッハの建前に過ぎん。だが俺は負けん、絶対に負けんぞ……。必ずこの障害を乗り越えて生き抜いてみせる。なあ、俺の可愛いシャルロッテよ……」


 

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