浮遊戦艦の中で244


「そんな人の業である悪癖を止めようとして、あのヴェルデムンド新政府は人の脳に仕掛けをしようと躍起になっていた……」

 コドノフ少尉は、過去の記憶を振り返りながら言葉を選ぶと、

「それでも私は、現在の羽間少佐たちの理念に賛同しゲリラ軍に参加したのです。全てが単一的な考えで強制される世の中というものに、常に疑問を呈していたからです。しかし、当時も現在でも羽間少佐の仰られる〝可能性の向こう側〟という考え方に自らの考えが合致したというのもあります。羽間少佐と私は一回り以上年齢が離れていますが、当時からあの方は私以上に活き活きとしていらっしゃいました。私は、そんなあの方の存在に人間としてかなり心惹かれていました。それはきっと、あの方に可能性という何かを感じているからなのだと思います。悲観的に究極の最小公約数的な生存方法を求めるのではなくて、最大公倍数的に可能性を広げて行動を示そうとするあの方に希望を見出していたのです。今でも私は、そんな考え方に自己投影をしているのだと思います」

「まあ、とは言え彼とて、決して全てに日の当たる生き方をして来たわけではないのだがな」

「ええ、それも存じていますとも、剣崎大佐。あの方は、若い時のそんな地の底を這うような苦労があってこそ、可能性を最大限に活かすという考え方を身に付けたのだと思います。人生の戦場というサバイバルを生き抜いてきた方だからこそ、そこで得られた無敵のアルゴリズムということなのでしょう」

「前々から思っていて口には出来ないでいたが、君はとんだ信望者だな。羽間君の……」

「ええ。今の時代、男だからとか女だからとか言うと語弊のもととなってしまいますが、でもやはり、私も一介の男として生まれ出て来たからには、あの方のような考え方のまま終生を全うしたいと考えます。それは男のロマンです」

「ハハッ、ロマンと、そう来たか……」

「ええ、当然です。善だの悪だのと簡易的な二分法で一括りにするのではなく、ロマンだとか憧れだとか、そういった漠然としながらも心の底からワクワクするような生き方を望んでいるのです」

「大した勢いだな、君も」

「ハハハ……。とは言え、大佐。私には羽間少佐のような戦士としての適性はありません。だから、結局こうやって後方の繋ぎ役ばかりをやっている次第なのですがね……」




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