浮遊戦艦の中で242


 剣崎の慧眼と咄嗟の判断によって、フーリンシア大尉に姿を変えた虹色の人類を捕らえることが出来た。

 しかし、未だ問題は山積みである。

 一つは、ウィク・ヴィクセンヌの行く手を阻む凶獣の群れ――。

 これの第一波を彼らは阻止出来たわけだが、その後の報告によれば、凶獣らは暗闇の森の中で擬態化したままこちら側を虎視眈々と狙い定めている様子である。

 それに加え二つ目は、同艦内に〝虹色の人類イリダーストメン〟の潜入を許してしまっている事実が発覚した。

 その名の通り、虹色の人類とは虹色に光る知的生命体であるが、彼らはその姿を自在に実在の人物に代えることが出来る。よって、彼らにひとたび人類の集団の中に紛れ込まれてしまえば、その正体を見破ることは容易なことではない。

 彼ら女王マリダを信望するウィク・ヴィクセンヌの乗組員を中心としたメンバーは、ここに至るまで革命事件のどさくさの中を地を這いつくばってやって来た。それだけに、入念な身元チェックをしている暇などなかったのである。

「まだまだ予断を許さぬこの状況で、一人一人を調べ上げるのは困難だ」

 剣崎が、メインモニターに映る敵影を窺いながら、コドノフ少尉にぼそりとつぶやくと、

「ええ、そうですね……。とは言え、このままでは我が軍は互いに疑心暗鬼になり、クリアな作戦行動が出来ないと思います。この私自身、自分に自信が持てず、これこの通り……」

 言って、コドノフ少尉は左腕を深くえぐったひっかき傷を見せた。

「ふむ、なるほど。そういった自己申告もありだな……。しかし、残念ながらその程度では虹色の人類の正体を暴くことは出来ん。なぜなら、奴らのを剥ぐには、我々人類で言うところの骨の髄の部分を露出させねばならん」

「そ、そうなのですか……」

「ああ。それが、今まで極秘に研究機関から伝わって来た虹色の人類の見分け方だ」

「何とも野蛮極まりありませんね……」

「しかし、そうでもせねば奴らは防ぎきれんのだよ」



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