浮遊戦艦の中で237
「な、何ぃ!? 黒き堕天使と清き大天使だと……?」
剣崎は怪訝な眼差しを向けてフーリンシアを見つめた。
「ええ。彼らは元々は人間と人工知能でした。しかし彼らは、悪しき境遇と悪しき周囲の思惑によって悪しき力を得てしまいました。それによって彼らは人の心と人工知能の使命を忘れ、互いに罵り合うようになり、挙句には力と力のせめぎ合いで身勝手な戦いをするようになってしまいました。それが私たちの世界で起こった〝堕天地天変〟と呼ばれる最終戦争です」
剣崎は言葉を返す気を失った。まるでおとぎ話のような内容だからである。
「見るからに大佐はお疑いのようですが、これは真の事実です。私たちの世界は、この最終戦争によって荒廃し、やがて人類のそのほとんどが死に追いやられてしまいました。無論、私たちの世界の剣崎大佐を死に追いやったのは黒き堕天使、ユート・クロヅカです。黒き堕天使の力は絶大です。あなたのような実力者であっても、到底かなう相手ではありませんでした……。なにしろ相手が悪かったのです。黒き堕天使とはその名の通り、自らの境遇に対する憎しみと悲しみをそのまま具現化した悪魔のような男なのですから。ですから、自分以外に蔓延る幸せを破壊することが何よりの悦びだったのです」
「なるほど。だからこそ、君と向こうの世界にある俺や息子の幸せの在り方が破壊されつくしたというわけだな」
「ええ。しかし、ある時ペルゼデール様は私の枕元に立たれて、こう仰られたのです。この世界の天変地異の元凶は、他世界とのバランスの相関関係にあるのだ、と……」
「ふうむ、つまり、君たちの居た世界の不幸な境遇は、こちら側の世界に元凶がある……と?」
「そうです! その通りです!」
「だから君は、この世界で〝火之神〟を創り、この火之神を覚醒させて暴虐の限りを尽くさせるという魂胆なわけだ……」
「ええ、さすがは大佐。その通りです」
フーリンシアが剣崎を尊敬の眼差しで見上げた時、
「馬鹿なのかね、君は……。よくもそんな出鱈目を吹き込まれて……」
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