浮遊戦艦の中で211


 剣崎の説得により、マリダ軍上層会議は一つの結論を出した。無論、人工知能〝火之神〟に不安要素プログラムを注入する方向である。

 しかし、蛇の道は蛇。一旦火之神に不安要素プログラムを注入すれば、後戻りはできない。その後にどういった化学変化が見られるのか、全く予測がつかないのだ。

「フフッ……。皆の前でああいったことを言った手前、この俺が一番焦っているなどと言えんな。なあ、フーリンシア君……」

 剣崎は、フーリンシアを始めとした技師チームに囲まれながら、ウィク・ヴィクセンヌのメインコンピューター室の一角で天を仰いでいる。

 彼女がまとめている技師チームは優秀である。不安要素プログラムは、フーリンシアを中心として半日で組み上げて、それを火之神に注入する直前段階まで来ている。

「私たちは、大佐のご提案してくださったアイデアを形にしたまでです。今回は、大佐の見解とアイデアを頂かなければ、私たちの作った火之神はただ凡庸なだけの人工知能で終わってしまうところでした」

「いや、フーリンシア君。感謝するのはまだ早い。なにせ、この火之神が我々の救いの神となるか、それとも悪魔となってしまうのかは、今後の経過次第だからな」

「ええ、その通りです。ですが、それでも感謝申し上げます。作り手……いえ、この火之神の生みの親の私たちからすれば、こうやって大きく巣立ちを迎えるということが、何より嬉しい事なのです」

「フーリンシア君……」

 剣崎は彼女に微笑むと、技師チームに対して合図を送った。これが、不安要素プログラム注入の合図である。

「マリダ陛下には申し訳ないが、凶獣ヴェロンを始めとした進化の激しい肉食系植物を相手にするにはこうするしかないのだ……。果たして、鬼が出るか蛇が出るか……」


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