浮遊戦艦の中で198



「へへっ、何だよマリダ。お前も相変わらず優等生だな。以前から、お前ら二人が飛び切りの良い子ちゃんなのは知ってたが、それではよ、この先この世界じゃ本当に苦労するぜ?」

 正太郎に言われて、マリダは首をかしげながら、

「苦労……で御座いますか?」

「ああそうだよ。マリダ。さっきお前は、今のままではこの世界じゃ到底生き残れねえと言った。それがどういう意味なのか、本当にお前の頭で理解できているのか?」

「は、はあ。それは、まだ……」

 この時のマリダはまだアンドロイドとしての経験も浅く、通り一辺倒の答えを導くので精一杯であった。

「だろう? お前は今まで会って来たアンドロイドの中でも飛び切り優秀だ。それは間違いねえ。だがよ、どう考えても経験値がまだまだ足りねえ。言うなれば、それだけケーススタディも足りねえってこった。確かに、こんな野蛮な世界に居ると、自分らだけに都合の良い偏った観点だけを押し通して生き抜くことは出来ねえのは誰が考えても当然のことさ。それはさっきのお前の言う通りだ。だがな、それが本当にどういう意味かを自分自身で導き出せねえと来りゃあ、それはまるで意味合いが違っちまう。ここでは、教科書通りの答えなんて、一つの参考程度にしかならねえんだからな」

 言われて、マリダも小紋もうんうんと話に聞き入りながら、正太郎を興味深く見つめる。

「ねえ、羽間さん。じゃあ、それはどういう意味なの? 僕にも分かりやすく教えて」

 小紋は、彼女らしい飄々とした甘えた声で聞いて来る。すると当然、

「ばーか。だから、そういうのは自分の頭で考えろって言ってんだろうが、小紋よう。確かにお前のそういう人懐っこいところはお前の武器うちなのかもしれねえがよ。それだと人を頼ることが常時癖になっちまうかもしれねえだろ? それじゃあ、お前が俺んところに来て厳しい修練に挑む意味がねえんだ」

「ああそうか、ごめんなさい、羽間さん。僕ってそんなに甘っちょろかった?」

「まあ、言うほどじゃねえけどな。せっかく俺と一緒になってこんなつれえ特訓ばかり受けてるんだ。そうなりゃ俺だって、お前にいっぱしの考え方になってもらいてえじゃねえか」

「なーるほど。納得だよ、羽間さん」

 小紋は上機嫌でまた塩むすびをぱくつく。

 だが、あまり納得いかないのはマリダの方である。

「正太郎様。まだわたくしにはおっしゃる意味が分かり兼ねます。どうか、納得のいくご教授を……」




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