浮遊戦艦の中で199



 言われて、正太郎は目をぱちくりと見開いてマリダを見つめた。どうやら彼女はおぼろげながらも彼の言葉の意図を組めていないらしい。

「あ、ああ……、そうか。マリダはまだ、この世に生まれて一年も経ってねえんだったっけな。俺ァよ、お前が普段から余りにも優等生なもんだから、どうしても人間と同じ扱いをしちまってた。だけど、こういう微妙な解釈ってのは、まだ経験年数の少ないアンドロイドには難しいよな? ホントすまねえ……」

 正太郎は、マリダに向かって優しい笑みを送る。

「い、いえ、正太郎様!! すまないだなんておっしゃらないで下さい!! わたくしは純粋にあなたのおっしゃられた言葉の意味を理解したいだけなのです! ただ、わたくしの思考回路があなた様の考えについて行かないだけなのです!! それなのにそんな風に言われてしまうと、わたくしは……」

 マリダはいかにも深刻そうな言い様で正太郎に詰め寄る。

 だが正太郎は、そんなマリダに対しても涼しい表情で、

「いやな、マリダ。常々俺としては、通り一辺倒じゃいけねえって信条があるんだ。通り一辺倒ってのは、あいつに理解出来るんなら、こいつにも理解出来るんだろうってな感じで、何でも十把一絡げに物事を決めつけちまう考えのことだ。だがよ、俺ァもともと商売人だ。商売人てのは、売り手のことも買い手のことも、そして世間のこともすべて加味して考えなくちゃいけねえ。それでな、客ってのはその個人個人に様々な考えを持っていてな、買い手は生まれた土地も違えば、性別も宗教も食ってるもの全部違うんだ。そんな十人十色の海千山千相手に、俺みてえな特殊な物を売ってる業種で同じような売り方をしてたんじゃ誰も相手にしてくれねえってな話だ」

「正太郎様、それはもしかして、宗教上の禁忌とされている物を、相手に無理に売り込んでも絶対に売れないという、この間語って頂いたあのお話のことでしょうか?」

「ああそうだ。よくそんな前にした話を覚えていたもんだな。まあ、それはたとえ話としちゃあそのまんまの話だが、いかにもそういうことだ。だから俺は言うんだ。俺ァ、お前にはお前に合った説明の仕方をしなくちゃいけねえってことだ」


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