浮遊戦艦の中で195




「フフッ、これで俺はまた、あの頃の貧乏学生時代と同じような生活に逆戻りだな……」

 言って彼は、しばらくやめていた煙草を無造作にテーブルの上からまさぐり取る。そしてそれに火を着け、

「いや、逆戻りなどではない……。あれから俺もかなり年齢としを食った。そして様々な戦地に赴き、戦友や部下の死をこの目で見て来た。様々な経験の積み重ねで、それ相応に人としての誇りと軍人としての技術を学んだ。だがそれと同時に、何の因果かあのシュンマッハの言いなりになり、罪もない連中に罪を擦り付けて蹴落としてきた。そのことで、ずいぶん人の恨みも買ったものだ……。そして何より、俺は自身にとって一番大事なものを失ってしまった……」

 リゲルデは、自らの思い出が詰まった部屋の中に、シャルロッテが愛用していた椅子を目にする。

 この椅子は、アンドロイド専用に作られた充電ハンガーが内蔵されたものである。

 だが、リゲルデは彼女の容姿に相反して、そのデザインが殺伐とし過ぎると言い、メーカーに特注で造らせた一品物である。

「この俺がな……。シャルロッテに対してあんなに夢中であったなどと、今さらになって分かっても、もう後の祭りだ……。人は失ってからその大事さを知ることになる。そんなふうに昔から言われているが、本当に自分のことは自分自身だけでは分からんものだ……」

 リゲルデはこの後、軍の慣例通りにこの部屋を出た。シャルロッテとの思い出の詰まった一室であったが、その場所に未練はない。ただあるのは、を再起不能なまでに葬り去ったマリダに対しての私怨があるだけである。

 彼は、どのような苦渋を嘗めてでも、元女王のマリダを亡き者にすると心に誓ったのだ。


 

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