浮遊戦艦の中で191


「そうだ、その通りだとも、フーリンシア君。そして人間は〝不安〟を感じると思い悩む……」

「そ、そうか、そういうことですか! だから、人々が思い悩んだ後には、様々な思考形態が生まれるのですね!!」 

 彼女は全てが腑に落ちたのか、納得してポンと手をたたく。

「うむ。だから、君たちの作り出した〝火之神〟には、その根底に〝不安〟という〝動機〟が足らぬと俺は言いたかったのだ」

「不安が動機……」

「そうだ。不安という動機は、様々な生きる道筋を生む。だが、勘違いせんでくれ。いくら様々な思考の道筋を生んだとしても、それを解決するのは〝行動〟でしかない。〝行動〟は何らかの〝結果〟を生む。だが、行動が無ければ、どんなに素晴らしい思考の道筋を生んだとしても、それは机上の空論にしかならぬ。時には、〝思考〟という順序をすっ飛ばしてより良い〝結果〟を生むこともある。しかしそれは〝運〟という〝勝ちの流れ〟にたまたま乗れただけのこと。この俺はそう考えている」

「ああ、いかにも剣崎大佐らしい戦略家のお言葉ですね」

「うむ。俺はいかにも戦略家だ。だが、俺が今言ったことがすべて正しいとは思ってなどおらん。とは言え、戦略家というものは、そんな考えが根底に無ければやってなどおれぬ」

「もしやすれば、大佐がここまで来られたのも、その〝不安〟があってのことなのでしょうか?」

 フーリンシアの瞳が輝く。彼女の底知れぬ興味が前面に押し出された瞬間である。

「むう、さすがに君は鋭いな。どうやら、君には隠し事は無意味のようだ。実は、俺は子供のころから体は大きかった。だが、どこか気が小さいように感じていてな。だからなのか、常に強い存在にひどく憧れを抱いていた」

「あこがれ……?」

「ああ、憧れだ。俺は、子供のころから自分がどうしても強い存在でないといけないという〝不安〟に苛まれていた。なにせ俺は、他の連中より体が飛び切りデカかったからな。そうなれば必然的に周囲は俺を頼りにして来る。だが、この俺ときたら、見た目とはまるで違う。目に見えぬものに怯え、嘆き、そして来るべき未来にさえも常に不安を抱く少年であった。つまり、過剰なまでに心が弱かったのだ。だからなのだ。心の弱い俺は、飛び切り強くなろうと努力した。必然的に誰もが頼りに出来る存在になろうと邁進して来たのだ」


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