浮遊戦艦の中で182


「やはりな。やはりそうであったか。やはりこ奴、まだ戦う相手に対しての予測が不十分なのだな。そうであろう、フーリンシア君!!」

 剣崎は言うや、壁際で他の技師たちと共にモニター機器を眺めている彼女に問うた。

 すると、彼女は何やら難しい表情のまま、

「さすがは剣崎大佐、お見事です……。私の自信作の〝烈火〟を、一瞬にしてお倒しになられてしまうなんて……」

 そう言って静かに剣崎のもとへ近づいて来た。

 彼女からは言葉の意味以外のものが感じられない。どうやら不安視していた敵意は無いようである。

「君は本当に、〝彼〟を成長させるためにこんなことを……」

「ええ、そうです。当たり前じゃないですか。一体、それ以外に何が……?」

「い、いや……。別に深い意味など無い……。ただ」

「ただ……?」

「いや、ただ……この勝負が始まる前に、君が不敵な笑みを浮かべたものだから……」

「不敵な笑み? 私が?」

「ああ、確かに笑ったのだよ、君が。俺たちが戦いを始める直前に。にやりと、この俺に向かって……」

 言われてフーリンシアは眉間にしわを寄せて首をひねる。

 潤んだ唇を尖らせ、しばし彼女は天井を見上げつつ考えこんだ。そして、何かを思いついたようにポンと手をたたくと、

「ああ、今分かりました! それでしたら多分、きっと、私自身が大佐のことを好きだから、つい微笑んでしまったのだと思います」

「はっ?」

「え、いや、だから……。私は、前々から大佐のことをお慕い申し上げていると言っているのです」

「な、何ぃ!!」

 正直言って、剣崎にはまるで言葉の意味が理解できなかった。一体、この女はこの非常時に何を言っていることやら……。

「何を驚きになっておられるのですか、大佐? 私は以前より、大佐のことが気になって気になって仕方がなかったのです。ですから私、今回のこの〝烈火〟も、相当に大佐に似せてお作りしたつもりなのですけれど……」



 

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