浮遊戦艦の中で180



 剣崎の耳元で異変が起きた。

「ぐぬっ……!!」

 彼が余裕のない緊張によって体を強張らせたことにより、装備していた左肩の防具アーマーがいきなり粉砕してしまったのだ。

「こ、これは、先ほどの奴の攻撃の……!?」

 一手前に見せたアンドロイド〝烈火〟の蹴りによって、彼の左肩の防具に甚大な悪影響があったのだ!

(俺の避けは完璧だったはず……。だが、奴の蹴りの凄まじさで、防具アーマーにひびが入ったのかもしれん……)

 剣崎の読みは当たっていた。アンドロイド〝烈火〟の直線的な蹴りは、対象物に触れずともそこを通り過ぎる衝撃波によってダメージを与えることが出来る。

(なんてことだ……。奴はあのように涼しい顔をして、まるで殺人マシーンそのものではないか……)

 剣崎は、防具アーマーの外れた左肩を気にしている。どうやら肩に痺れが走っているらしい。

(こうなれば四の五の言っておれん……。あ奴らは、本気でこの俺を打ち負かそうとしている。いや、この世から抹殺しようとしている……)

 この時、剣崎は息を吐いた。静かに腰を落とし息を吐いて、腹の底に力を溜め込んだ。

(集中するのだ。今は何も考えず集中するのだ……。ただ、目の前の敵を……目の前のアンドロイドを倒すことだけを考えるのだ……)

 剣崎はこの瞬間、余計な考えを削ぎ落した。ここに来るまでの自らの失態。ここに来るまでの自らの欲望。ここに来るまでの自らの邪念。そればかりではなく、自らの過去の栄光や実績ですら頭の中から排除し、ただ目の前に立ちはだかるアンドロイドを倒すためだけに集中した。

(こ奴のたたずまい……。これは確かに人間ではない。だが、それだからこそ何か弱点があるはずだ……)




 

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