浮遊戦艦の中で172


 フーリンシア三崎大尉は、ウィク・ヴィクセンヌ女王部隊直轄の技術士官である。

 彼女はその洗練された美しい容姿とは裏腹に、システム系の技術畑一本でこの厳しい世界を生き残って来た人工知能の専門家である。

 フーリンシア大尉のその美しい見た目に魅せられて、今までに沢山の男性兵士が誘いの文句を唱えて来たのだが、

「貴方が戦いに命をお懸けになっていらっしゃるように、私自身も私のお仕事に命を懸けて精進しております。ですので、今は殿方とそのような愉悦に浸り込む余裕など御座いません。それに、私の作り出す人工知能は、貴方がたの大切なお命をお守りする物だと言っても過言ではないのです。よって、今は私が男性に興味を惹かれることは御座いません」

 そう言われて断られてしまうのが関の山だった。

 これは、ヴェルデムンド新政府が設立される以前からの軍関係者の中の風物詩でもあった。そのことから、彼女ももう女性としてはかなり良いお年頃である。であるにもかかわらず、その態度を少しも崩さぬ姿勢に、彼女の偏屈ぶりは生きた伝説にもなってしまっている。

 しかし、彼女としても本当に異性に興味を抱いていないわけではなかった。

 ただ彼女の言い分として、

「私の作り出す人工知能を超えられる男性が、私の前に現れてくれないからなのです」

 というジレンマを訴えていることも報告されている。

 確かに、彼女の求める男性への理想像は高い。それゆえに、彼女は彼女が考える理想を自分の作り出す人工知能にフィードバックさせてしまっている。

 そしてさらに、自分の作り上げた人工知能が完璧なものでないと、それをまた改良に改良を重ねて行くのである。

 その繰り返しが彼女の理想像を現実離れした高みに行き渡らせ、終いには現実の男性との乖離を促進させてしまうという結果になっていたのであった。

「噂のフーリンシア大尉と絡むことになるとは、全くやりにくいものだ……。これだけ有能で見た目も美しい彼女だが、彼女の目にはこの俺がどう映って見えているのかも想像できん……」

 周囲からは〝豪傑〟そのもので通っている剣崎大佐も、フーリンシア大尉の前では硬くならざる柄を得ないのだ。


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