浮遊戦艦の中で171


 無論、マリダ軍も状況把握をするための斥候や伝令兵を出してはいるが、ヴェルデムンド特有のこの根深い森の木々と湿地帯だらけの大地には手を焼かされているのである。

 通信技術は、所々に敷設した中継基地のリレーによって三次元ネットワークなどの電波を送受信してはいるが、これを全て完璧に維持するともなれば莫大な費用と労力が掛かる。

 よって、第十五寄留跡地に近くなるともなれば、必然と通信がままならなくなるのも致し方ない。

「ううむ……。もともとこの第十五寄留地エリアは、我々のペルゼデール・ネイション第二寄留地からかなり離れている。元来ここは、そのような場所であったことに加え、数か月前に起きたあの不可思議な寄留地の崩壊という災難があったのも事実。おおよその予測は出来ていたことだが、ここはもう我々人間の力の及ばぬ治外法権地帯であると認識した方が良い。そうだな、フーリンシア大尉?」

 濃い乳白色の霧にむせぶ夜空を見上げ、ウォーレン・剣崎大佐は彼女に語り掛ける。

 ウィク・ヴィクセンヌの艦橋から見える景色は、見事にどんよりとした白一色で、どのようにサーチライトを照らしても光の乱反射により前方を視界で確認出来ない。

「はい、剣崎大佐。この最新型好感度センサー搭載のウィク・ヴィクセンヌでなければ、このように大きな車体をこのような速度で走行させることは困難であると考えられます」

 フーリンシア・三崎大尉は、その黄金色に光る後ろ手に結わえた髪を右手で払いのけると、すっと銀縁の眼鏡の中央を押さえ、するどい視線を搭載された人工知能装置〝火之神〟に向ける。

「しかし、この私どものチームが丹精込めて作り上げた〝火之神〟さえあれば、目的地の第十五寄留跡地へは間もなく辿り着けるはずです。この人工知能神〝火之神〟は、今までの戦闘用人工知能をさらに状況把握に特化させた特別体です。そしてさらに、特別体と申し上げられるもう一つの理由は……」

「あ、ああ、良い良い……。その話はこの間のブリーフィングで聞いている。この人工知能〝火之神〟が特別体として他の人工知能と差別化が出来ている理由は、三次元ネットワークなどの通信機器と繋がっておらずとも、単体だけでそれまでの人工知能の数万倍の状況把握能力を演算出来るのだったな……」

 剣崎が、いつになく含みの混じった言い方をすると、

「え、ええ……そういうことです。申し訳ありません。私ったら、つい夢中になってしまうもので……」



 

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