浮遊戦艦の中で69


「ナルコザワリーダー。正面二、敵影をキャッチ。敵浮遊戦艦カラ、出現ヲ確認……」

 浮遊戦艦の輪郭がはっきりと見えて来ると、迅雷五型改搭載の人工知能〝疾風はやて〟が、全く抑揚のない言葉で語り掛けて来る。

「もうっ!! こんなにとんでもない数の敵を前にして、どうしてあなたはそんなに落ち着いているの!?」

 小紋は、レーダーモニターに映し出される対象の数を確認するや、つい強い口調で言い返してしまう。なにせ、モニターに点在するその数はざっと見ても百に近い。一体でも厄介な融合種ハイブリッダーが、わんさと浮遊戦艦から出て来る様は、まるで不気味で巨大な巣から襲撃を開始したスズメバチのように異様な迫力がある。

「ナルコザワリーダー。オッシャル意味が、手前ニハ理解し兼ネマス……。ソノヨウナ場合、手前ニモ理解デキル的確ナ言葉二、イイカエテクダサイ」

「うんもうっ!! 今はそんな悠長なことが出来る場合じゃないでしょ!? そんなことより、早く融合種ハイブリッダー用のあの武器を発射して!!」

「アノ武器? アノ武器ト申サレテモ……。的確ナ指示ヲお願いシマス……」

「あの武器と言ったらあの武器だよ!! いつも戦闘開始にはやってるじゃない!? こういう時にあの武器と言ったら、拡散暗礁弾幕ミサイルのことだよ!!」 

「指示、了解シマシタ。コレヨリ、拡散暗礁弾幕ミサイルヲ、発射イタシマス」

「そうだよ! よろしくね!!」

 言うや、小紋は額に手を当てて、苦り切った表情で天を仰ぐ。

 地球上でフェイズウォーカーに搭乗するようになってからと言うもの、いつもこの調子なのだ。

 拡散暗礁弾幕ミサイル――。

 この武器は、直接的に融合種ハイブリッダーにダメージを与えないものの、夜目の利かぬ融合種ハイブリッダーに対して、昼間でも空間の光を遮る微粒子をまき散らすことによって、その戦闘力を半分以下にさせる効果がある物である。

 このような場面で、先ずはこのような効果的な武器を撃つのは常套手段であるにもかかわらず、今現在の地球上の戦闘用人工知能は融通の利かぬ受け答えをして来るのである。

「拡散暗礁弾幕ミサイル発射――!!」

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