浮遊戦艦の中で66


 小紋は、スロットノズルのパワーを最大限に振り絞った。とともに、迅雷五型改のコックピットはかなりの振動が伴う。機体はまるで疾風のように豪快な波しぶきを上げ、さらなる加速度を増す。

 迅雷五型改がまかり通った後に、壁のようなV字型の白波がが浮き立っている。比較的穏やかな湾内も、それによってこの状況をただならぬ様相に仕立て上げる。

「きっと、今のこの局面が転機なんだ。あの頃にも、羽間さんに教えてもらったことがある。それが戦いだろうと、私生活の類いだろうと、どこかにその転機となる局面が潜んでいるんだって……。だから、羽間さんのような戦略家といった人たちは、その局面となる風の流れをいつも読んでいなければならないんだって……。だから、風の流れの変わったことに気づかない戦略家は、何も分からないまま船全体を沈めるだけなんだって……」

 小紋は、この一瞬で風向きが変わったことをさとっていた。これで転機が訪れる。しかもそれは、相手側が仕掛けてきた最大の転機なんだと。

「相手側が仕掛けてきたってことは、きっとその裏側に何かが隠れているってことで良いんだよね、羽間さん……? 多分、羽間さんにこう問い掛けたとしたら、答えは必ずこう返って来る。答えは一つじゃねえ。どこにも正解なんかありゃしねえ。だけど、それが上手く行った時が答えなんだ。だけどよ、上手く行かなかった時も、それだって一つの答えだって時もある。まあ、結果的にいい感じの結果を出せりゃあ、それに越したことはねえんだがな……ってね。そうでしょ、羽間さん?」

 小紋は声色まで真似して、思わずクスリとにやけてしまう。いかにもと言った具合で、彼が言いそうな言葉を並び立ててみたが、並び立てれば並び立てるほど、まるで正太郎が目の前に居るような気がしてしまうのだ。

「要するに、自分の思い通りの結果になることだけが答えじゃないってことだよね、羽間さん? 羽間さんは、ずっとそうやってあの弱肉強食の世界を生き残ってきたんだもんね……」


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