浮遊戦艦の中で54
こうなれば武器も偵察もへったくれもない。戦闘なんてどこ吹く風である。
正太郎は、最新式のバズーカ砲を投げ捨て一目散にその場を駆け出した。
巨大三毛の子猫は、みゃあみゃあと愛らしい鳴き声を発しながら凄い勢いで正太郎の後ろを追いかけてくる。巨大子猫に他意はない。ただ、遊び相手が欲しいだけである。
「こんにゃろう!! どうなってやがんだ!! 敵意が無い敵なんて生まれて初めてだぜ!!」
最早、巨大人工知能は彼の性格をお見通しであった。
正太郎は、敵意をむき出しにして襲ってくる者には容赦がない。しかしその逆に、敵意の無い相手や守るべき対象にはとことん危害を加えたりしない。
「こん畜生!! これなら正攻法で来られた方がまだマシだぜ!! おいエナ!! そんなとこで澄ました顔してねえで、何とか言ったらどうでえ!!」
正太郎は、慌てて瓦礫の散乱する街を逃げ回る。そんな光景を、顔をピクリともせず、エナ・リックバルトは高い鉄塔の先っぽに立ち尽くしている。
(もう、話し掛けないでよ! 今、プログラム再構築の大事な所なんだから!)
エナは、正太郎の頭の中に直接意思を伝えてきた。
「だってよお前、敵の〝怪獣〟があんなだなんて、一言も言ってくれなかったじゃねえか!」
(そりゃあ言わないわよ。だって言ったら、最初からあなたは戦意を喪失してしまうかもしれないじゃない?)
「そういう問題じゃねえだろ! 敵を知り、己を知れば百戦して危うからずなんだからよ!」
(だけどこの街の人はみんな、あの〝怪獣〟に尻尾を巻いて逃げ出してしまったわ)
「なんだと!?」
(そう、そういうことなの。確かにここは〝偽りの世界〟の街なんだけれど、そこに登場する人々は知っての通り現実に存在する人たちで構成されている。そんな人たちは、みんなあの巨大三毛の子猫ちゃんに街を破壊されるがまま、反撃も出来ずに逃げ出してしまったわ)
「つ、つまり……みんな、あの見た目にやられちまったってわけか?」
(そういうことなの。だから、この瓦礫の街には、人っ子一人遺体も見つからないでしょう? それがその理由よ)
正太郎は、逃げまどいながら顔をしかめた。
人々は、住処を失い、生活の基盤を破壊され、明日の糧を稼ぐ土壌を滅茶苦茶にされても、あの敵意の無い可愛らしい存在に成されるがままこの場を去ったということなのだ。
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