浮遊戦艦の中で㊾


「巨大人工知能が、その微妙なニュアンスを読み取れない? ねえ、ショウタロウ・ハザマ。なぜそう思うの?」

 エナは、怪訝な表情でニヤつく正太郎を問い質す。

「なぜって……そりゃあ、俺の相棒の烈太郎ですら、そういうのがやっとこさ分かってき掛けてる状態だったからよ」

「分かってき掛けている?」

「ああそうだ。奴ら人工知能ってのは、結構ああ見えてもまだ成長段階なんだ。見た目はあんなデカ物だってよ、若い時の俺と同じ、中身はまだすっからかんな所があるってことさ」

「中身すっからかん?」

「ああそう、中身すっからかんだ。確かに演算能力も人間様より桁外れに高けりゃ、記憶能力だって忘れっぽい人間よか比べ物にならねえぐれえ正確にものを覚えてる。だがよ、それだけじゃ駄目なんだ。物事を正確に把握するにゃあ、それ相応の〝感覚〟ってものが要る。その感覚ってのが上手く作用してくれなくちゃ、その後の記憶や演算がどんなに素晴らしくたって何もならねえ……」

「ああそうか。つまり、1+1の1の部分が正確に1と感覚的に判断できなければ、その後の解の部分も大幅にずれたままになっちゃうもんね」

「そうだ、エナ。だからなんだよ。俺たち人間だって、どんなに賢くったって元の情報が現実と乖離かいりしてちゃあ、とんちんかんな思い込みで行動を余儀なくされちまうってことさ。……だから、だから思うんだ。コイツら巨大人工知能が、どんなに膨大なシミュレーションを行ったとしても、もしかすればどこかで何か一つ勘違いをしてるんじゃないかってことを……」

「勘違い……? 一体それは何なの、ショウタロウ・ハザマ?」

「さあ、それはこの俺にも分からねえ。ただよ、どうもこの件は俺の〝勘シグナル〟に引っ掛かるんだ。俺の今までの経験則から来る微妙な振動とでも言うか……」

 正太郎は腕組みをし、眉間にしわを寄せ首をひねる。

 彼は、唯一無二の相棒、人工知能〝烈太郎〟との長い付き合いから、様々なことを学び、多くのことを感じ取っていた。

 その付き合いの中から思い浮かばれる〝人工知能〟と〝人間〟との似て非なる部分に、彼はいつも頭を抱え悩まされていた。

 彼らは、元々が人間ではない。

 彼らは人間によって生み出された新しい存在ではあるものの、その思考の土台も、先行く理想の概念も我々人間とはほぼ異なる。

 そのような存在の〝目〟や〝耳〟、そして〝鼻〟といった感覚的な部分からは、一体どのようにこの世界が映り込んでいるものであろうか。

「だからこそ、奴らは俺たちを生け捕りにして、こうして研究を繰り返しているわけだが……。果たして本当に俺たちのことを理解出来ているものなのか?」


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