浮遊戦艦の中で㉘


「俺の本体? 何だそりゃ?」

 正太郎は眉間にしわを寄せ首をひねる。

「何だそりゃじゃないわよう! あなた自身の身体の事よう!! 今のそのあなたの姿はね、前にも言った通りあなたたち浮遊戦艦に囚われた人々の記憶の相互認識から形作られた仮想形態でしかないの。でも、実際のあなたはこの浮遊戦艦のどこかでひっそりとはずよ。さっき言った通り、巨大人工知能の思考ユニットとしてね」

「じゃあ、未来の俺の身体が別にあるってことか?」

「そうよ。確かに今のあなたの認識では、今現在のあなたの姿が自分自身の本体としか思えないのでしょうけど、実際のあなたはその姿から十数年も経った姿なわけ」

「なるへそ。つまり、俺の本体ってのは、もうおっさん状態てなわけだ。なんか複雑な心境だな」

「そこは大丈夫よ、安心して。十数年後のあなたは、まだ子供のあたしから見てもとても魅力的なんだから。今の若い姿のあなたなんかより」

「ふうん。やっぱお前はオジコンなんだな。それより、ファザコンてなところか? 余程家庭に恵まれなかったのか……」

「もうっ、そういうところが若い証拠なのよ!! なんてデリカシーの無い一言なのかしら!! いくら頭の回転が速いからって、そういうデリケートな所をズケズケ言葉に出しちゃうから若い男に魅力を感じないんだわ!! 同じ中身なのに年齢がこなれてないと、こうも違うものなのかしら!!」

「何だよ、ホントのこと言ったまでだろ? 当たってんなら別にいいじゃん」

「良くなんかないわよ! ホントに馬鹿なんだから!! 十数年後のあなたはそんなんじゃなかったわ! 確かに普通じゃない破天荒な所はあるけれど、それでも人を包み込むような優しさに溢れていてとても紳士的で……。今のあなたより断然魅力的だったわ!!」

「何だよ! さっきから聞いてりゃ好き放題言いやがって! こっちだってミリィやフェルやナーニャにサヨナラすら言えなくって気が立ってるんだ! そっちも少しぁ気遣えってんだ!!」

「だからそれは過去の記憶をなぞっているだけの幻影だって言っているでしょう!? そうやっていつまでもネチネチネチネチ過ぎたことにこだわってる場合じゃないんだから!!」

「馬鹿野郎!! それが確かに事実だったとしても、今の俺にとっちゃあ今起きたまでの現実何だよ!! そんなすぐに頭が切り替えられるものか!!」


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