浮遊戦艦の中で⑫


 というわけで正太郎は、ミリア・サージェス・ジグムントというお気に入りの女性を半ば強引にピクニックに誘ったわけである。

 それからというもの、彼はミリアを始めとして、その幼い二人の子供と度々様々な場所に出掛けたのであった。四人は顔を合わせる度に、急速に親密な仲になって行ったのである。

 まだ、弱冠二十代半ばの正太郎であった。が、彼女らとの関係に何の抵抗もなかった。その逆に、正太郎は家庭的な彼女たちの振る舞いに、今までにあまり感じたことのない安らぎを覚えて行った。

 正太郎は商売柄、人の心の裏側まで読み取り、そしてそれを打算し、さらには相手の心の内を読み取っていても、そ知らぬふりをして駆け引きをせねばならぬ立場にある。

 そんな殺伐とした状況ばかりを見ている彼にとって、ミリアという女性の何とも裏表の無さが心惹かれてしまうのである。

 さらに、彼女の気立ての良さもさることながら、二人の子供――五才の息子フェルナンドと三才の娘ナーニャが正太郎にすっかりなついてしまっていた。

 時を重ねるたび、正太郎とミリアは次第に深く惹かれ合った。そしてことなくして、二人は早々に体の関係を持つようになった。それはもう、人としての自然の成り行きであり、そして互いの幸福を約束するための道しるべでもあった。

 そんなある日のことである――

 正太郎は、自前の商売とゲネックとの修業に、寝る暇もなく明け暮れていた。

「チィッ、今夜も全く遅くなっちまったな。今日はフェルもナーニャも店の託児所に預かってもらってる日だ。俺ァ、一度自分のマンションに戻って、アイツらへのお土産でも取りに行ってくるか」

 正太郎はもう、小さな二人の子供の親になったつもりでいた。元来彼は、子供好きであり、世話好きな男である。まだ籍こそ入れていないが、誰かのために働くという充実感に人生の何たるかを見出し始めていた。

 正太郎は、鼻歌混じりに足取りも軽く、真夜中のマンションの階段を上り、自室のドアを開けた時である。

「ん? 誰だ!? 誰かそこに居るのか!?」


 

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