浮遊戦艦の中で⑪


 正太郎は、キャバレー【穂乃果倶楽部】のママからそんな噂話を聞いてしまってからというもの、子持ちのミリィのことが気になるようになってしまった。

 元々、正太郎はミリアの佇まいや容姿がお気に入りだった。女性らしいしなやかな物腰に、陶器のように透くような白い肌。そして、痩せ型でありながら何とも言えぬむっちりとした肉付きは、正太郎ならずとも世の男共を虜にするに十分である。

(なんつーか、本能的に守ってあげたくなっちまうんだよなあ、ミリィちゃんは……)

 てな具合で、いつの間にやら彼はこの店に顔を出すたびに、ミリアを必ず指名するようになっていたのだ。

「てなわけでよ、ミリィちゃん。今度の修業の合間にさ、その……お前の子供たち連れて、どっか良い所にでも行かねえか?」

「良い所ってどこ? 正太郎ちゃん」

「ああ、そうだなあ……。このゲッスンの谷の名所と言やぁ数あれど、所詮このゲッスンの谷は採掘基地が主流の殺風景な場所だ。てなわけでよ、ここはこの俺に任せてくれよ。俺ァ、ゲネックのおやっさんとの修業で谷外れの密林にまでしょっちゅう行くことがある。その途中で、最高に眺めが良い広い棚場を見っけたんだ。あれなら十人や二十人居たって崖崩れする心配はねえし、もしヴェロンがやって来たって、みんなで隠れられる洞窟も見つけておいた。だからよ、そこでミリィちゃんと子供二人一緒になってバーベキューでもやろうぜ。あんなロケーションでみんなでワイワイやったら、きっと子供たちも喜ぶはずだせ?」

「正太郎ちゃん、あなた……?」

「まあ、お堅いことは言いっこ無しだぜ。俺ァ、ミリィちゃんたちの喜ぶ顔が見られればそれでいいんだ」

「正太郎ちゃん。あたし、嬉しい……」

「じゃあ、万事オーケーってことで良いんだな? なら、早速日取りを合わせようぜ。俺から誘っておいて言うのも野暮ってえけどよ、こう見えても俺ァ商人稼業とおやっさんの修業との掛け持ちの身なんだ。この俺が忙しい身なのは、ミリィちゃんも先刻承知かもしれねえけどよ、それでも俺ァどうしてもお前さんたちとあの場所に行きてえんだ。な? だから、早いとこ話を決めちまおうぜ」


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