フォール・アシッド・オー72


「話は後だ! さあ、そちらの方も、この私の身体につかまって!」

 何と、小紋の兄の鳴子沢春馬が、床の一部のタイルを引き剥がして、そこから手を差し伸べてきたのだ。

「かたじけない……。そなたが小紋殿の兄上殿か?」

 春馬は華奢な体で懸命にデュバラを引き寄せると、

「いかにもそうです。いつも妹が大変お世話になっております。今後ともご面倒とは存じますが、ふつつかな我が妹をよろしくお願い申し……」

「は、春馬兄さん、何やってんの!? こんなところでご丁寧なご挨拶してる場合じゃないでしょ!! さあ、早くデュバラさんをそこの穴に引き下げて!! それじゃないと、みんな丸焦げになっちゃうよう!!」


 

 小紋らは、鳴子沢春馬の手引きによって、なんとか無事に世界マカロニ教団――通称ピンク教団の根城から脱出することが出来た。

 春馬の手引きしてくれた通路は、教団幹部が有事の際に脱出口としてしつらえていた物で、このような場合には特におあつらえ向きであった。

「ねえ、春馬兄さん。何で兄さんがこんな通路の存在を知っていたの? 何で僕たちのピンチを救ってくれたの?」

「それは決まってるさ。実の妹と、その妹がいつもお世話になっている方の危機を救うのは人として当たり前のことだからな」

 春馬は鼻息も荒く得意げに言う。

「違うよう! 僕はそういうことを聞いているんじゃないの! 何で春馬兄さんが、あんな所から、しかもあのタイミングで出て来たかってことを聞きたいんだよう!」

 そこにデュバラも口をはさんで、

「フム、俺もその話をお伺いしたい。助けてもらった恩人に対し、このようなことを聞くのは多少失礼に当たると考えるのですが……。しかし、小紋殿とクリスティーナの話によれば、そなたはとある過激組織の手足として動いていると伺っている。その御仁が、なにゆえに俺たちを命懸けで救ってくれたというのだ、ということをお伺いしたい」

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