フォール・アシッド・オー67


 その衝撃で、二分の一のサムライの兜が見事に真っ二つに割れた。と同時に、小紋の打ち付けたトンファーも二本とも粉々に砕け散った。

 しかし意外なことがあった。割れた兜の中からは、正太郎に似せた作り物の頭部が出て来るかと思いきや、なんとそれとはまた別の何かがごろりと落ちて来たのだ。

「な、何これ……!?」

 小紋はあまりの不気味さに表情がゆがみ、背筋がぞっとするほどの不快な嗚咽を伴った。

「な、なんだこれは……!? これは機械などではない! まるで生き物の肉片そのものではないか!?」

 それを見たデュバラでさえ顔をしかめた。起動しなくなったそれぞれのパーツからも、濃灰色の酸化した潤滑油とともに、信じられぬほど奇妙な形をした肉の塊が姿を現している。

「これはまさか……。〝珠玉の繭玉〟の成れの果てでは……?」 

 ここで言う珠玉の繭玉の成れの果てとは、あの羽間正太郎が第十五寄留崩壊の時に見た失敗例である。それらは機械と生物とが融合し合う際に、何らかの拒否反応を起こし、意思は残らずとも、それでも生命活動を続けていたの物を言う。

 デュバラは、古巣の暗殺集団〝黄金の円月輪〟に対し、このような非道な物を作り出す上層部に、強い懸念を抱いていた。

(まさか、ここでこれに出会ってしまうとは……!? またこの存在が俺の前に立ちはだかるのか!?)

 彼の住んでいた第十五寄留ブラフマデージャは次元渡航ターミナルから一番離れており、立地としての辺境というだけでなく、元来ヴェルデムンド新政府からの統治ですら手の届き難い唯一無二の場所であった。

 そんな辺境という名の場所で行われていた〝人を超えた人類〟を模索する実験。それこそが、あのブラフマデージャ崩壊への道筋へと繋がって行ったのだ。

 当時のデュバラ・デフーは、アヴェル・アルサンダールを始めとした上層部の信任も厚く、過去の戦乱で婚約者を亡くしたことも相まって、そういった上層部の計画に人形のように従うだけの存在であった。

 だが、クリスティーナという新たな伴侶と道を共にする決意をした今となっては、ただあの計画は、

(人々が長年積み重ねてきた美学というものを根底から崩してしまう……)

 という考えに至っている。

「それにしても、この……。これがここにあるということは、俺もとうとう奴らと一戦交えねばならぬということか……」


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