フォール・アシッド・オー65
二分の一のサムライの正体が一人ではない――。
そう確信を得た小紋であったが、それゆえにさらに彼女の心中は複雑になる。
(そう、この人の弾丸から伝わって来た感じは、一人だけのものじゃなかった……。きっとこの弾丸の出どころは、バラバラになった体のどこからか狙いをつけて発射されてきたものに間違いない。なのに、一つ一つには別々の意思を感じたんだ。この人の相手を呪う気持ちは同じでも、それでも妙に調和の取れない沢山の意思みたいなものが見えてくるんだ……)
小紋の予想通りであった。胴体の一部が床に転げ落ちた途端に、あれだけ優勢を誇っていた二分の一のサムライに、何やら不穏な空気が漂ってきたのだ。
(やっぱりだ……。また何か一人でぶつくさ言ってる……)
二分の一のサムライの頭部だけが単独行動をとり、またあの時のように誰かと話すような仕草をしている。
いやそればかりか、小紋の目には話しているようには見えていない。それままるで、
(誰かとケンカしてるみたい……)
二分の一のサムライのそれぞれのパーツたちは今まで以上に活発な動きを見せる。が、その行動は妙に荒々しいというか、妙にそわそわした乱雑な動きに変わってきたのだ。どうやらそれぞれのパーツの統制が取れていないようである。と同時に、赤い色の弾丸の狙いも次第におろそかになってきた。
(そうか、そういうことだったんだ! 二分の一のサムライという人。この人は沢山の意思が寄り集まって出来た存在。つまり、一つの肉体をシェアしてそれぞれが自分の力を出し合ったり、自分の至らないところを補ったりしていたんだ。だけど……)
とは言え、いくら多勢無勢という言葉があったにせよ、精神面でその方向性が歪曲したもの同士が寄り集まればその集団は非常にもろい。
この者たちは、羽間正太郎という実物の存在に自分に都合の良い幻想を抱き、そこに実に都合の良い力を見出していたのだ。
(だけど、どんなに力があったって、それを冷静に制御出来る心がなければ……)
それがなければ、いずれ彼らはその崩壊の一途を辿る。
小紋は、ここぞとばかりに次々と狙いの定まらない赤い弾丸の軌道を変えて行った。さっき成功した技に自信を持った彼女は、再びそれに試みる。案の定、赤い弾丸は二分の一のサムライのそれぞれのパーツに命中し、統制の取れていない
辺り一帯に血しぶきにも似た酸化したオイルがまき散らされる。
「さあ、ここからが仕上げだよ! 覚悟して!! 二分の一のサムライ!!」
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