フォール・アシッド・オー64


 小紋は、あの時の特訓を思い起こすたび、今の自分が昨日の自分より一ミリでも成長していることを念頭に置いて修業を積んできていた。

 だが、現在相手にしている二分の一のサムライはどうか。

(きっと、この人の強さは自分でつかみ取った強さじゃないんだ。どんなにこの人が強くったって、そんなんじゃ……。そんなんじゃ……!!)

 赤い弾丸が四方から唸りを上げて襲い掛かって来る。小紋は、あの特訓で正太郎に言われたことを念頭に置き、

(自分を守る、みんなを守る、それと同時に相手からの攻撃をける。またそれと同じタイミングで相手が何を考えているのか、そしてどんな相手なのかを知る――)

 彼女には、トンファーで赤い弾丸の軌道を変えてゆくたび、二分の一のサムライの息遣いと鼓動が伝わって来る。いくら二分の一のサムライが羽間正太郎を模した何かだとは言え、人間をベースにしたサイボーグであることに違いない。ゆえに、もとが人間である以上、思考や仕草、無意識に起こる癖などは人間由来のものであるはずである。

 それだけに、一つ一つ弾丸の軌道を変えたときに覚える違和感は並々ならぬものがあった。

(どういうことだろう……? とっても変だよ。この弾丸から伝わってくるこの感じは、まるで……)

 小紋はまだ半信半疑であった。しかし、そこに確信を求めるのであれば、

(こっちから鎌をかけなきゃだね)

 そう思うや、彼女はトンファーをくるくると回し、さらに一歩踏み込んで飛んできた弾丸の一つをある方向へと誘い込んだ。すると、

「なんだと……!?」

 二分の一のサムライが叫び、不規則に浮遊していた胴体の一部にそれが命中したのだ。

「ぐほっ……!!」

 二十ミリほどもあるかなり口径の大きい弾丸である。そんな馬鹿でかい弾丸なものだから、いくら装甲のぶ厚い鎧だとしても、その衝撃はかなりのもの。二分の一のサムライの胴体は跳ねてグルグルと舞いながら床に叩きつけられた。

「やった!!」

 小紋は思いのほか自分の技が上手くいったことに酔いしれるとともに、そこから発せられる違和感の正体の確信に至った。

(やっぱり、やっぱりだったんだ!! この二分の一のサムライという人。この人はんだ!!)


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