フォール・アシッド・オー56


「は、はあ? 噂!? 羽間さんが単なる噂だって!?」

「そうだよ、ハザマショウタロウなんてもんは、あの戦乱が作り出した歴史の嘘の産物なんだよ!! 俺ァこうやってこんなナリをしちゃいるが、ハザマショウタロウなんてとんでもねえ人間が本当に存在していたなんてこれっぽっちも思っちゃいねえ。だがよ、俺ァただどんなにそれがハッタリだったとしても、この男の力が欲しかったんだ。巷じゃあ、この男はヴェルデムンドの背骨折りとかなんとか色々ととんでもねえ逸話を残していると言われていたらしいが、そんなのどうせ尾ひれのついた色んな連中の武勇伝の寄せ集めに過ぎねえ。それでも俺ァこの力を手に入れたかったんだ!! だからよ、悪いこたぁ言わねえ嬢ちゃん。そんな可愛い顔して、どうかそんなホラ話に乗っかって、自分が一番弟子みてえな情けねえことを大っぴらに口にするもんじゃねえぜ? 聞いてるこっちがこっずかしくなるからよ!」

 二分の一のサムライはことさら腹を抱えて小馬鹿にして来る。どうやらこの男は、彼女を貶めるのが目的ではなく、本気でそう思っているらしい。

「な……なによ!! 何なんだよう!! あなたは本当に何なんだよう!! あなたは本当に何を知っているというの? どうしてそんなことが言えるの? 何だかあなたは、どこかで本当に見てきたようなことを言ってるけど、本当にそれを見たことがあるの? 言っておくけど、僕は本当に血を吐くような努力をしてあの世界に行ってあの世界で羽間さんと巡り会って来たんだよ!? あなたみたいな人がいるから、今みたいな世の中になっちゃうんだよ!! こんな機械だらけの中身のない人だらけになっちゃったんだよ!? マリダみたいに、私は生まれてこの方機械人形だけど、なんて言って、実は本当の人間より人間らしい強くて優しいアンドロイドだっているのにさ!!」

 小紋は目に涙を一杯に溜め込んで言葉を吐いた。彼女がこれまで出会ってきた人々を侮辱され、自分自身の辿ってきた人生を真っ向から否定されて黙っていられる彼女ではない。本当に悔しいのだ。

「へへん、何とでも言いやがれってんだ、このホラ吹き嬢ちゃん。いいか? この世の中は結果を残した奴が勝ちだ。力と金が全てなんだ。百歩譲って、もし嬢ちゃんの言うことが本当だとしても、それが何になる? ハザマショウタロウの一番弟子だからって何になる? あの世界がどうだからって何になるってんだよ!? ここで俺がテメエらを血祭にしちまえば、それはどっちでもいい、無意味なことなんだよ!!」 

 いうや、二分の一のサムライは大刀を大上段に振りかざした。そしてそれを一気に小紋目掛けて振り下ろす!!

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