フォール・アシッド・オー㊻


 今現在にデュバラ・デフーに見えている敵は、最早以前の者とは違っていた。

 しかし――

(一つだけ解せぬ事がある。二度目にこの俺が仕掛けた〝六道邪神烈波りくどうじゃしんれっぱ〟は完璧だった……。それをいとも容易にすり抜け、逆にこの俺の背後に回れたのはどういうカラクリなのだ!? たとえあ奴が羽間正太郎の成れの果てでないにしても、あれだけの技をすり抜けるには何らかのギミックが必要だ。でなければ、この後の戦いに際しても影響し兼ねん……)

 デュバラの推測する通り、二分の一のサムライが羽間正太郎本人でなかったとしても、彼の死を呼ぶ技をかわすことが出来たのは事実である。いくら今のデュバラの目に映る二分の一のサムライの動きが、どこか隙だらけでぎこちなく見えていたとしても、彼の放つ光輪を寸分違わず避け切っていることには違いないのだ。

(俺が以前に戦いを交えた時、羽間正太郎にあのようなぎこちなさは無かった。逆にあの時は無手勝流の何とも言えぬ迫力があった。……しかしよく見れば、こ奴にはそれが感じられぬ。何と言うか、こ奴からはどこか何かを似せて動いているような、そんな物が感じられる……)

 デュバラは念じるや、再び六道邪神烈波の構えに入った。この技は、体力的にそう何度も打てるものではない。しかし、相手の動向を測るには、あえてこの技を打つのが適切である。

(行くぞ、二分の一のサムライ!! これで貴様のその偽りの仮面を剥いでやる!! とどめを刺すのはそれからだ!!)

 デュバラは再三にわたり、大きな翼を天高く広げた。彼の自慢の翼も、幾度となく放たれた光輪によって羽根の本数が薄らいで来ている。そして心なしか、技を繰り出そうとする姿にもどこか疲弊の痕跡が隠せないでいる。

 それでも彼は六枚の羽根を念動力で空中に浮き上がらせると、それに途轍もない回転を与えた。回転を与えられた羽根はそれぞれに風を切り裂く音を立てながら光を放ち、六芒星の幾何学的な動きを伴いながら激しい軌道を描く。

(余計な邪念を打ち払ったこの俺の目で、貴様の本当の姿を暴いてやる!! それが出来て初めて戦略というもの、それが出来て初めて真の戦いが出来るというものなのだ!! 行くぞ、六道邪神烈波――!!)

 デュバラは、宙に編成を汲んだ光輪を二分の一のサムライに向かって撃ち放った。


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