フォール・アシッド・オー㊹


 刹那、デュバラの目には二分の一のサムライが鎧の中で誰かと言葉を交わしているように見えた。一体誰と会話をしているのだろうか。

(このような時に独りちるなど、余りにも余裕があるではないか……。いくら相手が鬼神とは言え、ここまでコケにされては気分が萎えるというものだ……)

 デュバラにも意地やプライドというものがある。彼は暗殺組織〝黄金の円月輪〟の中でも特に秀でた才能を持ったエリート中のエリートであった。それだけに心中は複雑である。

(確かに俺は、幼少の頃より周りの者と比べて抜きん出ていたのは認めよう。しかし、だからと言って自らの才覚に胡坐あぐらをかき、それに甘んじて鍛錬を怠ったことなど一度もない!! 俺は無性に腹が立つ。なにせ、何の苦労もせずに身体の一部を機械に換えてしまうミックスの存在自体がこの俺は許せんからだ。俺は子供の頃から、昨日の自分に打ちつことだけを考えてこれまでやって来たのだ!! まして、目の前の男が羽間正太郎の成れの果てなのであれば尚更腹立たしい。なぜに貴様はその才覚を機械などに委ねたのだ!!)

 これが彼の本音である。

 だがしかし、そう言う彼も数年前に小紋の才覚に嫉妬し、その身体を珠玉の繭玉を使って融合種ハイブリッダーに変えてしまった一人であった。

 彼は本当は分かっている。そう言った自分自身に対しての弱さが、この相手に太刀打ちできない原因でると。

(そうだ……。俺は、覚悟を決めている振りをして、実は自分のことすら見えていない弱い男なのだ。いや、自分の弱さを在りもせぬ理由をでっち上げて、それで隠そうとしていた。本当に強い男なら、ありのままの自分にすら迷いなどないはず……。俺は、今のこの姿の自分にすら自信を持てない下卑た男なのだ!!)

 デュバラがそれに気づいた時、彼の中で要らぬ何かが喉元から下がって行くのを感じた。

 それと同時に、今までと同じ光景を見ていたにもかかわらず、スッと別の何かが見えて来るようになった。

(な、何だ!? あの二分の一のサムライの不自然な動きは……!? あれが鬼神と恐れていた男の体さばきなのか!?)



 

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