フォール・アシッド・オー㉟



 デュバラは、二分の一のサムライの余りの桁外れの力に恐れをなし一瞬動きが止まる。

 その光景を目の当たりにした小紋は、

(あ、あのデュバラさんが動揺を隠せないだなんて……。一体なんて相手なの、あの黒い人は!! ……でも、だからと言って負けちゃいられない!! だって僕たちの後ろには、クリスさんとデュバラさんの赤ちゃんが控えてるんだもの! そう、僕だって羽間さんに出会うまでは絶対に死ぬわけにはいかない!!)

 小紋はそれでもひるまずステップ踏みトンファーを打ち続けた。これで手を止めてしまえば相手の思う壺。こちら側の作戦を遂行するどころの話ではなくなってしまう。今こそ歯を食いしばり、次こそ期待通りに事が運ぶと信じなければ彼女たちの明日はここで絶たれてしまうのだ。

(僕はこれが無駄なことだなんて全然思ってない!! どんなにこの黒い人が強くったって、どんなに凄い人だって言ったって、何か手ごたえはあるはずだよ。じゃなかったら、こんなにガードを固める必要だってないんだもの!!)

 それは小紋の思う通りであった。二分の一のサムライは、デュバラ・デフーの秘技を容易に跳ね返した途端に再び防戦一方に転じた。もし、この相手にこの二人の攻撃を跳ねけ、二人無いし三人同時にあの世に送れるという確信があれば、もう早々とそれを行動に移していることであろう。

 だが、見ての通り二分の一のサムライはそれをしない。いや、それをしないどころか、相手は見るからに先程より強固な防御態勢でのぞんでいるように見える。

 小紋は思った。

(一体どういう事なんだろう……? 黒い人はこんなに強いのに、なんでいちいちこういう感じでガードを固めるんだろう? もし僕が、僕の思うようにとんでもなく強かったら、こんなふうにするだろうか……?)

 同時にデュバラも考えた。

(どういうことだ……!? 二分の一のサムライの実力は、この俺の秘技を跳ね返した時点で察しが付く。しかし、こうも亀のようにガードを固める必要性がどこにある? あれだけの力量と技術があれば、こうも拳を惹く必然性に欠ける……。一体この動きは何なのだ……? こ奴は何を企んでいるのだ……?)



 

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