フォール・アシッド・オー㉒
デュバラの脳裏に、確信に近い悪い予感が
(この途方もない戦闘感覚、そして常人では計り知れぬ危機察知能力。これはまるであの時の……!?)
彼は滴る汗も拭えなかった。しかし、戻って来たチャクラムを受け止めようとした、その時である……!!
「デュバラさん、後ろだよ!! 避けて!!」
小紋が鬼気迫る大声で叫んだ。デュバラは反射的にその声に反応して腕を固め防御態勢を取るが、
「グホッ……!!」
デュバラのどてっ腹が虚しくくの字に折れ曲がる。二分の一のサムライの回し蹴りがまともに入ったのだ。
「ぐうう……!! は、早すぎる……」
デュバラはチャクラムを受け止めるまでもなく苦悶の表情を浮かべた。
しかして投擲技だけではなく、格闘術に於いても組織内で誰にも引けを取らなかったデュバラ・デフーであったが、二分の一のサムライの動きはそれを遙かに凌駕している。
(この俺と動き自体は互角……とは言え、奴は並みの人間の知覚ではない。つまり、この感覚は〝三心映操の法術〟で間違いない。でなければ、あのように俺の秘技を避け切ることは不可能なのだ。するとやはりこの男の正体は……!?)
デュバラは考えつつも、すかさず腹にめり込んだ足を抱え込んだ。このまま固唾を飲んでやられてばかりにはいかない。彼は反撃に出たのだ。先ずは片足を高く振り上げて反動をつけると共に、
「うおおおおおっ!!」
気合一番、唸り声を上げながら蹴り込まれた足を身体ごと回転させねじ切ろうとする。しかし相手もそれを予期してい居た。二分の一のサムライはその反動をも利用し、もう片方の足でデュバラの後頭部目掛けて素早い蹴りを入れて来た。
だが、デュバラとて負けておらず、その蹴りすら予測していた。彼は頭部をスッと横に引いてそれを避けたかと思うと、今度はその反動を利用してまた同じ方向に身体を回転させ、二分の一のサムライの足をさらにねじ切ろうとする。
しかしさらに二分の一のサムライも床面に手をついて同じ方向に身体をぐるりと回転させた。二分の一のサムライはその反動を利用しては、もう一撃デュバラの後頭部を執拗に狙って来る。
しかしデュバラはその一撃を紙一重で避けると、今度は、
(このままでは、俺の息がもたん……!!)
とばかりに、ようやく二分の一のサムライの足を離して素早く遠のき、攻防一体になれる間合いを取った。
(不覚……!! 焦燥が邪魔をしなんだら、もう一撃仕掛けられたものを!!)
デュバラは肩で息をするしかなかった。一瞬の攻防であったが、そのやり取りは命の根源を凝縮したような密度の濃さがある。しかし――
(見るにあの男、息切れ一つしておらん。どういうことだ? もし奴の正体があの男であったのなら、今の攻防で一時的な酸欠状態になって居るはずだ。にもかかわらず、奴はマスクの向こう側で平然と身を構えている……)
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