フォール・アシッド・オー㉓



 デュバラには、二分の一のサムライの余裕綽綽よゆうしゃくしゃくと言った息遣いがありありと伝わって来る。生身の人間ではあり得ない、とても機械的な匂いのたたずまいだ。

 デュバラ・デフーはこれまでのやり取りの中で、

(奴の正体は、羽間正太郎ではあるまいか……?)

 と勘繰っていた。しかし、羽間正太郎と言えば、〝自然派〟を象徴するネイチャーの代表格である。そんな男が、今の攻防で一片たりとも息も切らさず乱さずにいるとはとても考えられぬ。

 ましてあのパワーである。初手の一撃をチャクラムで受けた時の力たるや、その衝撃はとても尋常たるものではなかった。あのズシリと重たい金属を叩き付けられたような感覚は、身体を機械に換えたミックスやドールと言った者たち特有の重みである事は間違いない。

(であるならば、奴は羽間正太郎ではない。もしくは、羽間正太郎がとうとう機械の身体に魅入られてしまった成れの果てだとでも言うのか……?)

 デュバラ・デフーに得も言われぬ衝撃が走る。

 あの五年前の戦乱で信念を基に戦った男が、このような狂信的な団体に属し、あまつさえ強い者と戦いたいが為だけに身体を機械に換えてしまうなどと容易に考えられるものではない。

(この俺は以前に、不覚にもおのれの欲望の歯止めが利かず、小紋殿のその才能に嫉妬し〝珠玉の繭玉〟を使用して他の生命体との融合を果たしてしまった……。そんな心の弱い己自身だからこそ強く思うことがある。あの羽間正太郎という男にはおのが信念を貫き通して欲しかった。身体や技術だけではない。その信念の基となっている彼の心の強さを証明して欲しかったのだ。そしてさらに……)

 そしてさらに、デュバラはこの状況を固唾を飲んで見つめている小紋の姿に目をやった。

 ここに居る鳴子沢小紋という身体の小さな女性と徒党を組むようになって、早三年近くの月日が流れていた。しかしてその鳴子沢小紋という女性の羽間正太郎への一途たる思いを知るにあたって、これほどに虚しい事実はない。なにせ、あの女性はそのような男に惚れ込んで生き続けていると言っても過言ではないからだ。

(小紋殿にはこの件は伏せておこう。もし、奴が本当に羽間正太郎であったのなら、その衝撃はこの俺の比では済まされんからな……)

 デュバラが考えを心に収め、立ち向かう構えを見せた時、

「デュバラさん!! 失礼かもしれないけど、このままではデュバラさんに勝ち目は無いよ!! 僕が目になってあげる!!」


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