不毛の街㊷


「あら、こちらの持っている情報が欲しいですって? そう、あなた達、それでここにやって来たの……」

 ヴィクトリアの言葉には、不思議な重みがあった。キツネ目の奥にあるのは義眼なのだろうか? 瞳孔の開き具合が確認出来ないために、彼女の微妙なニュアンスが読み取りにくい。

「い、いや、あの……僕たちはそういう都合の良い考えでここに来たんじゃなくて、その……何て言うか、ねえ、クリスさん」

 小紋は、ヴィクトリアの圧倒的な迫力に気圧けおされていた。見た目には粛々として美しい彼女だが、その肉体から湧き出ずるものには、生死の狭間を体感させるほどの気迫を感じさせる。それは、小紋が良く知る人物、あの羽間正太郎に似て非なるものがある。

 その異様なる気迫めいたものを、クリスティーナも同様に感じ取っている様子だった。クリスティーナは見るからに顔面を蒼白にさせており、どこかいつもと雰囲気が違っていた。彼女も数々の任務をこなして来た手練れの隠密であったはず。だが、ここでは借りて来た猫のようにまるで別人の様相を呈している。

「え、ええ……、それは小紋さんの言う通り、わ、私たちは、こ、こちらの組織にご迷惑をかけるつもりはありません。ただ、今現在の地球自体の状況を打破したくて必死なのです……」

 普段なら、このようなクリスティーナのたどたどしい弁解など見る事はなかった。年齢こそ近いが、小紋にとってクリスティーナの言動は憧れであり、お手本そのものなのだ。

 しかし、今この瞬間にそれが無い。まるで社会に出たての新人の研修のように全てが棒読みに聞こえる。

 クリスティーナですら、そのようにさせてしまう白狐のヴィクトリア。

(これじゃあ、あの春馬兄さんでも飲み込まれてしまうのは仕方ないということ……? それにしてもこのヴィクトリアという人、どうしてこんなに攻撃的な感じがするの? まるで全身が針のむしろで出来ているみたい……)

 小紋は思った。見た目の雰囲気とはまるで真逆に、白狐のヴィクトリアという人物はかなり支配欲が強いタイプであることが予想される。

「良いかしら、お二人とも。この世界は、私たちのような優れた人間が統率して然るべきだと思うの。そこのところどう思って? ねえ小紋さん、クリスティーナさん」

「へっ? い、いやあの、僕はその……」

「そ、それは、その何と言いますか……」

 余りにも唐突過ぎる言い様に、二人は戸惑い気味に相づちを打つと、

「ほら、こんな言葉を聞いたことはあるかしら、お二人とも? ネオ・ホモサピエンス・サピエンス・ヴェルデムンダールという人々の名前を?」

 ヴィクトリアは、全く二人の反応など気にせず話を進める。

「い、いえ。それは聞いたことないです。ね、ねえ、クリスティーナさん」

「え、ええ……。私もあちらの世界では諜報活動などもやっておりましたが、そのような人種の名前などは……」

 彼女らが、もどかしさ混じりにたどたどしい口調で答えると、

「ふうん、そうなのね。それを知らないのはレジスタンスとしてはと言えるわ。この名前を知らなければ、あなた達が、この機械人間に支配された世の中を打破するなんて言っていること自体が幼稚の極みということなのよ!」

 ヴィクトリアはそれを言うや、声も高らかに、いきなりのけぞりかえってあざけり笑い始めた。

「な……!?」



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