不毛の街㊲


 正太郎は、フドウバナの真っ直ぐな眼差しに本心を吐露できなかった。彼はお調子者であり、場合によって世辞も言えば嘘も方便とみなす男である。だが彼女を抱いた時点で、彼は彼女の心の奥底にある脆弱な部分を本能的に感じ取っていたのだ。それをたった今、言及することはできなかったのだ。

 彼女がここでこういった事を言うにあたり、彼はがぜん納得がいった。この芯の部分が今にも崩れ落ちそうな儚く脆い部分を、彼はずっと抱き留めてやりたかったのだ、と。

 フドウバナは、正太郎にかれるまでもなく自然に口を開く。

「身共たちは、幼き頃に身寄りを失い、そしてとある軍関係者の加護によって養われて育ちました。そしてある程度の年齢に達したとき、ある者は戦闘員として徴兵され、ある者は学士過程を経て政府の幹部候補生として抜擢され、そしてある者は身共のように、特殊な訓練を受ける過程を経たのです」

「ということは、その最後に言った特殊な訓練てえ奴が、キミたち87部隊というわけだな……」

「はい……。身共らの役目は、諜報活動に工作活動。要人警護に、潜入作戦への参加。そして挙げ句は、相手方の重要人物の暗殺と言ったものでありました。そう、一時期はあなた様を暗殺するという指令さえ下りましたしね。しかし、その指令が下った時には、あなた様が失踪された後だったのです……」

「なるほどね。だから俺の背中を追ったと言うわけか。まさか、本当に反乱軍から身を退くとは思わねえだろうからな」

「ええ、その通りです。当時のヴェルデムンド新政府軍は、戦乱の膠着状態が余りにも長きに渡るため、反乱軍の中でもゲリラ戦に優れ、そして類稀なフェイズウォーカー乗りとしても名を馳せているあなた様をどうしてもこの世から消し去りたかったようなのです。しかし、そんなあなた様がどこぞへと失踪なされたとあっては、当時の新政府軍も疑心暗鬼の道を辿るしかありません。果たしてヴェルデムンドの背骨折りは、本当に第一線から身を退いたのか? はたまたその行為自体が何かの作戦であろうものなのか……?」

「それでキミたちは、俺の足跡をさらに追ったと……?」

「ええ、そうです、そうなのです。そして身共らは……いえ、少なくとも身共は気づかされました。自分自身というものを。どこに自分というものがあるのかを」


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