不毛の街㉗


 ※※※


 これだけの巨大さを誇る浮遊戦艦でありながら、人々を受け入れるための入り口は一つしかない。

 その時、羽間正太郎は、

(なるほど。どんなに時間が掛かっても、慎重に人を受け入れるための手立てだというわけだな……)

 そう直感した。

 どのように巨大な器と見せかけていても、こういったところで相手の性格というものが浮き彫りになる。

 あれだけ誇大な宣伝を打って人を集めたにもかかわらず、どこか警戒心というものが垣間見えている。

(てえことはよ。こいつァ、もしかすると……)

 正太郎の人間としての根幹の部分に、相手の陰影がおぼろげに浮かんでくる。

 あなたが世界を滅ぼしたいのなら――

 彼の師であるゲネック・アルサンダールに叩き込まれた、その戦略の基礎となる枕詞が、たった今彼の脳裏を閃光のように走り抜けたのである。

(そうか、分かったぜ! この俺の勘が正しければ、この相手は少なくとも人間じゃねえ。まだ人間というものを模索中の人工知能ということになる!!)

 これは机上の空論などではない。彼が今まで戦場で培って来た経験の蓄積によって導き出された答えなのだ。

(こいつァよ。派手に振舞っているようで、どこか思いきりおびえていやがるんだ。そうだ。俺たち人間の場合、やることに自信がねえ時に限って妙に口数が多くなっちまう事がある。今のこの感じは、特にそれに近い。あんな化けもんを用意して、ド派手なデモンストレーションを見せつけた上でだからな。つうことは、なんだ……。慎重を絵に描いた行動ってなところか、はたまた受け入れる処理能力が追い付かねえってなところなのか……)

 入り口に列を成した人々は、未だにまだかまだかと戸惑いとざわめきを抑えながら自らの順番を待ち構えている。

 一人が入る度に、鋼鉄の分厚いシャッターが開いたり閉まったりしているが、その奥をうかがい知ることは出来ない。

 一人に費やされる時間は、それでもざっと見て三秒程度。

 正太郎はそれを見て、

(まるで工場のベルトコンベアに乗せられて行く缶詰の材料を見てるみたいだぜ……)

 そう思ってしまった。

 しかし、そう感じているのは正太郎一人だけではない。その入り口に並ぶ大抵の人は、いかにも不安を募らせたような表情で、一定のリズムを打ちならす開閉扉をじっと見つめている。

 そのうち、どうにもいたたまれなくなった女性が、

「い、いやあ! やっぱりあたし、元の場所に帰るわ!!」

 そう絶叫して列からはみ出したのだ。


 

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