不毛の街⑪
「なあ、小紋よ。そして、隣りに居る美しい人よ……」
「へっ、私!?」
クリスティーナは唐突に呼ばれ、きょとんとして眼を見開く。
「そうです。肩まで伸びる赤髪が可憐な美しい人よ。私はあなたのような方が小紋の側に居てくれることをとても誇りに思っております。そして感謝しております。本当に有り難う」
春馬は頭部から一条の光源を照らしつけつつ、華やかに一礼をする。凡百の輩がそれをすればかなり臭い仕草だが、なぜか彼がそれをすると、全く嫌味の〝い〟の字も感じさせなかった。
クリスティーナは、何が何だか訳が分からず彼のペースに流されるがまま、
「あ、あの……私はクリスティーナ浪野と申します、小紋さんのお兄さん。これからは、クリスと呼んでくださって結構ですわ」
さらに奥ゆかしそうな仕草を見せて頬を染めてしまう。
「ああ、それではお言葉に甘えて、クリスさん。ここはあえて歩きながら話すと致しましょう」
「は、はい……」
クリスティーナの余りにも少女染みた対応に、その光景を側から見ていた小紋が目をパチクリし、
「ちょ、ちょっと……春馬兄さん! クリスさんはこれでも人妻なんだからね! あんまりそういうの良くないと思うよ!!」
小紋は上空から羽を広げて見守っているデュバラの存在にハラハラしている。
「はあ。何を訳のわからん事を言っているのだ、小紋? 私はただこの方と大人の挨拶をしているだけだぞ。実の妹と言えども、それは失礼ではないか」
春馬の言い様には何の悪びれも含まれていない。
「だ、だからあ……! それが悪いんだってばあ! 春馬兄さんこそ、昔っからなにも変わってない……!!」
「変わっていないだと? 何が変わらなくてはいかんのだ?」
小紋の兄、鳴子沢春馬はかなりのド天然女ったらしである。その言葉にも仕草にも、少しの下心など隠されていない。にもかかわらず、彼はあらゆる女性を惹き付けてしまう能力がある。それを妹の小紋から見て、昔からどうにも慣れるものではなかったのだ。
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