不毛の街⑦



「もう、やってしまったものは仕方がない。だけど、あの行動は軽率よ、小紋さん」

 クリスティーナは身の軽い物腰で小走りになりながら小紋を諭す。

「ごめんなさい、クリスさん。でも、あの状況では……」

「ええ、解かっているわ。これも仕方のないことぐらいわね。確かに私たちの目的はこれでになってしまったけれど、あれはあれで正解なのよ。私たちが人間として生きている上では、そうよね?」

 クリスティーナはニコリと軽い笑みを浮かべ、ウィンクしてみせる。

「ありがとう、クリスさん。僕ね、最近になって頻繁にああいったことばかり起きているものだから、それが許せなくって……」

「そうね、その通りよ。だから私たちは密かに同盟組織〝人間レジスタンス〟を結成したのよ。突出した〝力〟や〝技術〟ばかりを手に入れてしまった人々に、真の使い道を模索させるためにね」

「そう、僕がヴェルデムンド世界で所属していたあの〝発明法取締局〟だって、暴走する人たちの心を抑制する役割があった。実際、あの頃も街はこれ以上の争いごとだらけでてんてこ舞いだった。そう考えると、今も昔も人の中身だけは何も変わらない。ということは、どれだけ人間の機械化が進んでも、心だけはみんな昔のままじゃ意味がない」

「そう、だからこのままでは、今みたいな増上慢な輩が地球上に増殖され続けてしまうのよ。それが人のごうというものなのだから……」

 二人は風を切るように人混みに潜り込むと、互いに自分たちの目的を見失わぬように言葉を投げかけ合う。

 日中の元銀座駅は、ビジネスマンや観光客、それにどこぞの国籍も分からないサイボークの風体をした人々でひしめき合っている。

 小紋とクリスティーナの二人は、駅構内の監視カメラになるべく姿が映らないように気を配りながら小走りに駅を出ようとする。

 その時であった――

「えっ、何!?」

 小紋の肩をグイッと強く引っ張る物があった。

 小紋はその時、心臓が飛び出るぐらいの衝撃を覚えた。なぜなら、その手の気配であれば気付かない彼女ではなかったからだ。

 まして、彼女の隣に居るクリスティーナは、元ペルゼデール軍所属の女王親衛隊特殊部隊出身の隠密である。そのような経歴を持つ彼女ですら背後の気配を悟られぬのであれば、小紋の肩を引っ張って来たこの手の持ち主は相当の手練れと焦りを覚えるのも無理はない。


 

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