不毛の街③


「まさか、五年前のヴェルデムンド世界で成されなかった事態が、こうもあっさり地球で実現されてしまうとはね。これもきっと、地球に住む人たちが、すっかり腰抜けになってしまった証拠よ」

「確かにクリスさんの言う通りだね。に住む人は、いつも肉食系植物の危険に晒されているから……」

「そうね。そうやって今考えてみると、十数年前の【ビハール・シャリーフ協定】の締結や、機械神【ダーナ・フロイズン】建立の背景には何か関係があるのかもしれないわ」

「それって、僕たちが生まれる前からキナ臭い何かが匂ってるってこと? クリスさん」

「そうねえ、なんて説明すればよいのかしら……。簡単に言うと、最初から狙いは地球だったんじゃないかってこと」

「えっ? つまり、地球の人たちの身体を機械化するために、あんな宇宙探査競争の協定を作ってみたり、有りもしない機械神をでっち上げて異次元世界に移り住ませたっていうの?」

「そういうことよ。それをさせている黒幕の目的までは分からないけれどね。でもこうやって一連の流れを考えれば、どこか自然過ぎる今現在までの結果がかえって不自然と言えるのよ。ここまで機械化が人類に浸透してしまうこと自体がね……」

「それって、僕たちが前まで住んでいたヴェルデムンド世界を実験台にしてたってこと?」

「うん……、そうかもしれないって話。まあ少なくとも、実験台とまではいかなくても、反面教師とか観察対象にしていたのは間違いない」

「そ、そんなひどいこと……」

「でもね、小紋さん。確かに、あなたの大好きな羽間さんの言う通り、人間の身体を生身のままで生きて行くのか、それとも機械に置き換えてしまうのかは選択の自由があるべきだと思うの。だから、あれはあれで人類の行く末を模索するという意味では悪くない考え方なのかもしれない。でも……、今の地球のように、あまりにも世の中自体がミックスやアンドロイドに有利であるのならば、それはフェアな考え方とはいえないでしょ? まして、法律でガチガチに機械の身体の優位性を示してしまえば、それは単なる大衆への心理誘導にしかならない。これは誰が考えたって意図的な行為よ」

「うーん……。ねえ、クリスさん」

「なあに?」

「僕、いつも考えているんだけど、なぜ黒幕たちは人間を機械の身体に変えたがるんだろう? そう思わない?」

「ええ、私もそう思うわ。確かに機械の身体は便利だけど、実際は機械にまつわるエネルギーの負担も馬鹿にならないし、脳内伝達手段の三次元ネットワークの整備や通信料だって相当な負担よ。それに……」

「それに?」

 クリスティーナが言い掛けた時だった。混み合い気味の列車内のその向こう側から、ひどくつっけんどんな怒号が響き渡った。

「何よ、ちょっとアナタ!! 今、わたしのお尻触ったでしょう!? キャー!! この人痴漢よ!! 誰かこの男を捕まえて!!」

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