神々の旗印222


 正太郎が地球に潜入する手筈は既に整っていた。彼らペルゼデール軍は、地球と思しき場所から放たれた何基ものミサイルの軌道を検知し、その軌道から導き出された射出場所を特定してそこに何人かのエージェントと、機動部隊を送り込む作戦を画策していたのだ。

 しかし、射出場所に直接乗り込んだのでは容易に敵に察知されてしまう。それで、いくつかのダミー部隊と本隊とを分散させ、今の敵側の現状を探ろうという魂胆なのだ。

 だが、それには多大な犠牲も止むを得ないことは覚悟の上たっだ。黒い嵐の事変が起きて以来、ヴェルデムンド世界と地球との国交は断絶されたままだ。それは、次元ターミナルと呼ばれる渡航港が技術的に封鎖されてしまっていることに由縁を持つ。

 次元渡航には、渡航の入り口と出口に互いの鍵となる〝次元羅針盤〟と呼ばれる道筋を示す物が必要なのだ。いくら渡航港の入り口が開いていても、それを受け入れる出口が開いて居なければ、ネズミ一匹地球に送り込むことすら出来ない。まさに、ペルゼデール・ネイションを建国した時に鳴子沢大膳が行ったものを、地球側からもやり返されてしまった状態なのだ。

「そういうわけだから、俺には今まで通り烈風七型と言う強い相棒が必要なわけなんだ。しかし、まさかこの大事な時にアイツが使い物にならねえだなんて考えても見なかったぜ、大尉……」

 正太郎は夕闇に染まって行く大地を見つめ、窓越しに木々一つない天空を仰いだ。

「とはいえ、少佐。手がないわけでは御座いませんよ。今現在、烈風七型という機体は使えなくとも、烈太郎君というコアユニットは健在なのです」

「いいや、大尉。昔一度だけ試したことがあるんですよ。あの機体をオールメンテナンスする為に、他の機体に移し替えて起動させてみようとしたことが」

「ほう」

「だけどね、全然ダメだったんです」

「それはどういったふうに?」

「ええ、つまりは烈太郎という人工知能のコアユニットと、他の機体ではアンバランス過ぎて使い物にすらならなかったんですよ」

「使い物にすらならなかった? と言いますと……」

「ええ。例えば、俺たち人間なら、どんなに旧式の機体やどんなに最新式の機体に乗り込んだとしても、余程のことがねえ限り、訓練さえすれば乗りこなすことが出来るでしょう?」

「そうで御座いますね。現在、この世界で最新式のフェイズウォーカー〝クイーンオウル〟の人工知能ユニットを、旧式の白蓮びゃくれんに乗せ換えたとしても、それは設定を変えるだけで汎用可能でございますから」

「そうなんだよ。俺たち人間だって量産機の人工知能だって、そこんところはたいてい同じさ。でもよ、あいつだけは違うんだ。なんて言うか、烈太郎っていう人工知能は、あの機体バランスと機体機能があってこその烈太郎っていう個体なんですよ」


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