神々の旗印209
「おい婆さん、ここは……!?」
正太郎は半ば起き上がって問おうとするが、
「よいよい、お主はそのまま寝ておれ。どの道、その身体ではろくに暴れても長くは続かんだろうて……」
老婆はそう言って、近くに備わったベンチにゆっくりと腰掛けた。
「どっ……こい、しょ……」
何となくであるが、先ほど街で出会ったときより心なしか力強さが感じられない。
正太郎はそんな老婆の姿に不自然さを感じ、
「おい、どうした婆さん? 何かあったのか?」
「いいや、何もありゃせんよ。ただ……」
「ただ?」
「ただ、もう少しで
「お迎え?」
正太郎は怪訝な表情で老婆を見つめた。
「そうじゃ、お迎えじゃ。儂も長年この身体と付き合ってきたが、どうやらもう限界のようじゃ」
「限界だと? もしかしてまだこの辺りに〝お迎え症候群〟の伝播が蔓延しているのか?」
「いいや、そうじゃない。単にこの身体の寿命が迫りつつあるということじゃ」
「じゅ、寿命だと……? そ、それじゃあ……」
「ああ、そうじゃ。儂は儂として儂の人生をまっとうして生きていたが、実は儂はただ一人だけの儂ではない」
「そ、それはどういう……?」
正太郎が聞き返した時、また自動扉の向こうから黒いスーツ姿の身なりの整った男が姿を現して、
「博士、先ほどこの男を検査した結果が出ました。どうやらこの男も〝適性〟であると確証が得られました」
と老婆に
「そうか、儂の思うとった通りじゃ。大分活きのよい若造だと前々から狙いをつけておったが、儂の目に狂いは無かったようじゃ
「はい。いつも通りの慧眼にて素晴らしきことで御座います、博士」
「いいや、これは経験則に他ならん。いつの世もまこと愚かしきことと賢きことは表裏一体じゃ。二百五十年も生きておれば、その程度の事を分からぬようではただのうつけ者じゃ」
「ははっ、これは何とも身に沁みるお言葉……。この
「うむ、貞興。この儂に長い間よう仕えてくれ給うた。
「ははっ! この貞興、この命に代えても! 博士、いや殿! いや、我が明主、鈴木源太郎様に終生を捧げる所存にて御座います」
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