神々の旗印198


 剣崎大佐はそこで言葉を止めた。どうにも煮え切らないように見える。

「なあ、大佐。なぜ東京に首都タワーがあっちゃいけねえんだよ? ありゃあ、俺らの生まれる前の子供ん頃からの東京の象徴だぜ? それがなんで……」

「羽間少佐。貴様は、もうあの戦乱以来、故郷の日本に帰っておらんのだろう?」

 剣崎大佐がさらに低い声で問う。

 そんな調子っぱずれな言い様に、

「ああ、そうだが。そりゃまあ、無理に行こうと思えば出来なくもなかったんだが、こっちも色々と世話焼きがあってだな。つまりは弟子をとってみたりしてだな……」

 と、正太郎はわざとおどけた口調で返すのだが、

「貴様は何も分かっておらん。何も分かっておらんのだ、少佐……。いや、ここに居る全員が何も分かっておらなんだのだ」

 剣崎大佐はそう言って、いきなり卓上に両腕を叩き付けた。その反動で卓上に置いてあった水差しが一気に床に落ちた。正太郎とマドセード、エセンシスの三人はたまらず息を飲んだ。

「我々は……我々人類は、何も分かっておらなんだのだよ。我々の故郷、地球人類の殆どが機械人間に打って変られてしまったことを……」

「は? 地球人類が機械人間に入れ替わっちまっただって? な、何言って、何言ってんだよ……剣崎大佐? そんな冗談……」

「冗談ではない。事実なのだよ、羽間少佐……」

「な……アンタ、何言ってんだよ? ほら、今日はまだ四月一日じゃないぜ? こんな大事な席でおかしな事をいうもんじゃねえぜ。こりゃまた参ったね。これってドッキリなんだろ、ドッキリ? どっかにカメラなんか仕掛けて、俺たちをからかって楽しもうって魂胆なんだろ?」

 正太郎はケラケラと乾いた笑い声を上げながら、大仰な素振りでそこらじゅうに目線をやった。しかし、正太郎を始めとした三人以外、全く笑うどころかいかめめしい表情のままうつむいている。

「お、おい、どうしたんだよみんな? ほら、こりゃドッキリだって言ってくれよ! ドッキリなんだってはっきり言ってくれよ? 俺ァ寛大だからな、今なら怒りゃしねえよ。ほら、どうしたい!? 早くドッキリだって言ってくれよ!!」

 しかし、この会場に集まった将校は、一人としてその表情を崩さなかった。さらにあのマリダでさえも――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る