神々の旗印196


「ようござんすとも、剣崎大佐。だがよ、こいつら二人だけは勘弁してやってくれないですかね。こいつらは俺と違って、すぐにでも帰らにゃならない家があるんだ。この二人は、あの前の戦乱以来、どこの寄留にも属さねえ離れ小島みてえな場所でひっそりと暮らして来た。それも戦後に知り合った新しい家族と共にな。勝手なことを言うようで申し訳ないが、ここは一つ、寛大な一考を頼む」

 正太郎はそこで頭を下げた。

 何と言ってもここは軍の指揮下にある。彼らは軍属である。こんな身勝手な要望など本来なら許されるはずがない。

 剣崎大佐は、しばし腕を組み口をつぐんだ。あの厳めしい顔から、何とも言えぬ戸惑いが見え隠れしている。

 そこで話に割って入ったのは女王マリダであった。

「剣崎大佐。わたくしの思い付きで恐縮ではございますが、こうしてみては如何でしょうか?」

「とおっしゃいますと? 陛下……?」

「ええ、そこに居られます、マドセード・モーメス兵士長とエセンシス・モーメス兵士長には新しい特別任務を与えるのです。その……何て言ったかしら、お二人のお住まいの場所……?」

 そこでマドセードが強張り加減で、

「第十三寄留と第十寄留の間に位置する〝シーウィズの森〟という所でして……」

「そうでしたか、マドセード・モーメス兵士長。……そしてその〝シーウィズの森〟という所に、お二人を守備隊として派遣すれば、軍としても問題は無いかと思いますが、大佐、如何でしょうか?」

「……ハッ、そういうことであれば確かに軍としての面目が保てます、女王陛下……」

「それでは、その件は良しなに……」

「御意。その件は、私、剣崎の名をもって確実に仕りまして御座います」

「お願いいたします」

 実に清々しいほど心地よい決定であった。正直、正太郎は心の中でホッと胸をなでおろしていた。仮に、その進言がマリダの息の掛かった羽間小隊でなければ、こうも上手くは話が収まらなかったであろう。しかし、あまりこういったあからさまな依怙贔屓えこひいきに頼ってしまえば、やがて周囲からの反感を買ってしまう恐れがある。そこが気になるところだ。

 とは言え、隣りに位置する兄弟二人の顔のほころび加減に、正太郎の表情もふと緩む。

(まあ、いいじゃねえか。こいつらだって死ぬほど頑張ったんだ。いつ死ぬかもしれねえ橋を渡り合った褒美としちゃあ、これでも足りねえぐらいってなもんだ……)


 

 

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