神々の旗印195


「そう、あなた様の心の中……」

 マリダはそう言って、珍しくねた表情を見せた。「だって、こうやっていても、いつも心の中は小紋様のことばかり……」

「へへっ、何言ってやがる。俺ァ、そんなに無粋じゃねえよ。ほら、今こうしている時ァ、お前だけにぞっこんなんだ」

「あら、そうでしょうか。そんな事を言いつつも、足の指先は地球の方向に向いていますわ」

「え!? そ、そうだったか……!?」

 正太郎は思わず驚いてつま先に目をやる。すると、

「フフフ……引っ掛かりましたね、正太郎サマ。それは冗談です。普通、体は正直と申しますが、正太郎サマの場合、お心の方が正直なのですね、相変わらず……」

「おいおい、それは俺が軍師失格だって言いてえのか?」

「いいえ、わたくしはそんなあなた様の真っ直ぐなところがとても好きです」

 マリダはそう言うと、正太郎の肩に両腕を預けてキスをせがむ。

 そんな彼女の猫のように甘える一面など、この世に羽間正太郎一人しか知る者は居ない。



 三時間後、正太郎、マドセード、エセンシスの三人は女王専用車両内の参謀室に呼び出された。

 マリダは、もう女王の顔に戻っていた。周りには、数人の将校と護衛が肩を並べている。マリダ以外、途轍もなく絶望に満ちた表情をしている。

 先ず口を開いたのは、ペルゼデール軍第七方面部隊作戦指令、ウォーレン・剣崎大佐だった。

「作戦任務ご苦労であった、羽間少佐、マドセード・モーメス兵士長、エセンシス・モーメス兵士長。このウォーレン・剣崎、この軍に属する全ての兵に成り代わって礼を申し上げる。本当にご苦労であった……」

 剣崎大佐に、先日のとても横柄で傲慢な様子は見られなかった。それと打って変わって、粛々と丁寧にこうべを垂れるその態度に、彼ら一同の胸が締め付けられた。

「ああ、そう来られちゃア、死んで行ったイーアンとマーキュリーもさぞかし草葉の陰で満足げな顔をして喜んでいるでしょうぜ。なあ、マドセード、エセンシス」

 兄弟らは正太郎に促され、そろって首を縦に振った。

「とは言え羽間少佐。外の混乱はまだ収まりの様相を見せないでいる。貴様らに斥候として先行してもらったデータは確実に後進の戦闘データとして機能しているが、あの〝赤い巨人〟とやらは我々の予測の範疇を遙かに超えた存在だ。よって、ここにおわす女王陛下始め、我々軍の上層部の一部しか知らない情報と、貴様らの集めてくれた生きた情報を統合してみようと思うのだが、それに異論はないか?」

 その時正太郎は、なるほどそういうことか、と思った。

 いくら三次元ネットワークが確立した今日であっても、実際に肌で感じて、実際に戦った本人でなければ知り得ない何かがある事は確かだ。

 よって、ここに集められた三人は貴重な生きた情報源なのだ。三人が三人ともネイチャーであるがゆえに。





 



 

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