神々の旗印187

「第七方面部隊!?」

 兄弟らは、そろって声を上げた。そこで正太郎は、冷や汗を流しつつ得意げに、

「そうさ、第七方面部隊。あのウォーレン・剣崎大佐が直接指揮する猛将部隊さ」

 ウォーレン・剣崎大佐とは、先日、軍事キャンプ内で羽間正太郎に難癖をつけるように指令を下して来た司令官である。

 しかし、そんな横柄ともとらわれがちな彼だが、その武将としての才覚は天下一品であり、先のヴェルデムンドの戦乱に於いては〝一点直下の魔術師〟として名を馳せていた人物なのだ。

 彼は、その険しい山のような風貌と、嵐のように気性の激しい態度から、

(あの人は単なる力押しの傲慢な人物だ……)

 と、見られがちだが、その戦略術は意外にも針の穴を通すように繊細かつ極めて正確なものである。

 彼の二つ名である〝一点直下の魔術師〟の一点直下とは、相手の脆くなりそうな一点に執拗に狙いを定めて、それを最後まで根気よく射抜く所からそう呼ばれる様になったのである。

 それは羽間正太郎が、

『ヴェルデムンドの背骨折り』

 と呼ばれる由縁ゆえんによく似ている。

 一つ違うのは、羽間正太郎が、相手の重要部分――いわゆる背骨のような〝根幹部分〟を独自に見極めて、そこを集中して狙いを定めるのに対し、ウォーレン・剣崎大佐は、はなから相手の根幹部分などにこだわらず、自らの手で〝相手の弱点〟を作り上げてしまう所である。

 そして相手の弱点部分を作り上げたところから、様々な戦術を打って雪崩れ式に攻撃を仕掛けて来るのだ。

 弱点を作られた相手側としては、

「そこを随時補強すればよい」

 と考えがちだが、そうはいかない。なんと、ウォーレン・剣崎大佐は、その弱点となるダミーのブラフ(※はったり)をいくつも仕掛けてくるため、どれが本当の弱点なのか容易に判別がつかないのだ。

 時にはそのいくつもの仕掛けられたブラフによって、相手側は精神的に混乱してしまうことすらある。

 そういった内側からも外側からも脆くなった所に、大佐は一点直下の攻撃を仕掛けて来る。

 そうなると相手側は、

(たまったものではない……)

 となるわけだ。

 これはひとえに、横柄で力押しだけの人物が出来得る戦術ではないことは確かだった。そんな繊細なる人物だからこそ、あの時のように羽間正太郎に対して対抗意識を燃やしてしまうのも仕方ない事なのだ。

「だがよ。こういった時ほど、アンタみてえな人ほど頼り甲斐になる奴ァいねえ……」


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