神々の旗印145


 正太郎が言葉を発したその瞬間、

「ああ……私はあなたという男が憎い……。黒塚くんを私から奪ったあなたという男がとても憎いわ……」

 たちまち女の声で赤い巨人が喋り出した。それはとてもおどろおどろしい、とてもぐもった声で。

「なんだと!? 誰だお前は!?」

「私はセシル・セウウェル……。それ以上でもそれ以下でもないわ……」

 正太郎の頭の中に直接話しかけて来る女の声がある。

「何、セシル・セウウェルだと!? だからそれが何だ!?」

 彼は戸惑いながらも受け答えする。

「黒塚勇斗……彼は私のとても大切な人……。私は彼をとても愛していたわ。でも、彼は真実でも事実もなかった……」

「な、何だ!? 彼だと!? お前は何を言っている? 何の話をしている!?」

「勇斗よ、勇斗……。黒塚勇斗のことよ……」

「それは分かった! だが、お前の言う黒塚勇斗は、ついさっきまで俺たちとジェリー・アトキンスの姿としてここに居たんだぞ!? 一体奴はどこに行った!?」

「本当にあなたは何も知らないのね、黒塚勇斗の姿を……。本来のあるべき彼の姿を……」

「何だと!? そ、それはどういう……!?」

 正太郎が思わず聞き返した時――、

「兄貴! ヤバいよ、時間が!! もう少しでマド兄ぃ達のところに……!!」

 烈太郎が再び泣きそうな声を掛けて来た。だが、女の問い掛けは止まらない。

「あなたは何も知らない……。あなたには私たちの気持ちは分からない……。私たちのようにダーナ・フロイズンに選ばれなかった劣化した人々の末路を……」

「何っ!? ダーナ・フロイズンだと!? 奴に選ばれなかっただと!? お前は何を言っている!? ダーナ・フロイズンなんて最初からこの世に存在していない筈だ!! そんなまやかしのコンピューターなどありはしない筈だ!! なのに、そんな物に選ばれなかったなんて、何の話だ!?」

 言うや、その言葉に女の声は反応し、嘲笑を含みつつ吐息混じりにまた問い掛けて来る。

「あなたはそれをその目で見たというの……? あなたはその目でそれを実際に見たというの? あなたに今の地球の現状の何を分かると言うの?」

「何だと!? さっぱり意味が分からん! お前は何の話をしているんだ!?」

「羽間正太郎……。あなたは何も知らない。知るはずがない。今の地球に起きている重大な内容を……」


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