神々の旗印125


 どうやら世界に点在する研究者たちの憶測は的を射ているようだ。

 人は相対的に生きていることは確かだ。だが、ここまで追い詰められた人類の〝無意識〟による選択が、〝無意識のリタイア〟であるなどと考えたくもない。

 そして、その〝無意識のリタイア〟の恐怖から逃れるために巻き起こったのが、

【宇宙開発競争】

 の波である。

 宇宙開発競争とは、地球以外の惑星、衛星、恒星、宇宙空間などで一定数の人類が五年以上の生活をし続けることが出来れば、そこにその国や団体の占有権や永住権を認め合うという協定から成された先住権争いの事を指す。

 しかし、人々を宇宙空間にまで運べる技術もままならない時代に、どうあがいてもこのまま宇宙開発競争をしていてもらちが明かない。

 そこに浮上してきたのが、巨大人工知能機械神【ダーナ・フロイズン】が指し示したとされる〝異次元移住計画〟というわけである。

 以前にも記した通り、宇宙開発競争【ビハール・シャリーフ協定】に反対する〝反協定派〟のテロリズムにより、羽間正太郎が散々世話になった日次ひなみ一家は、アメリカ移住の際に飛行機ハイジャックテロの犠牲となって海の藻屑と散っていった。

 しかし、実際に異世界移住が行われた途端に、あれだけ人類を悩ませた〝お迎え症候群〟は収束したのである。

 だが、正太郎らヴェルデムンドの戦乱に於いて、〝自然派〟と呼ばれる人々があくまで自然派にこだわった理由は、この過去の事象があればこその考えから来ているのだ。

「ミックスのように、ヒューマンチューニング手術を施した人々が世界を席巻すれば、確かに人々の生活の向上を図れるのかもしれない。だが、それと同時に人間はそれぞれの役割を失う。そして、寿命が格段に延び、意識や能力が平均化した人類に、また〝お迎え症候群〟の脅威が現れてしまった時には、きっと本当の絶望を見るのかもしれない……」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る