神々の旗印113


「そ、そんなあ、兄貴ぃ。オイラは、兄貴たち人間とずっと仲良く暮らして行きたいよ……」

 烈太郎のその言葉に偽りはなかった。彼は、産みの親である桐野博士に、どう人間と共存して行けるのかというコンセプトで製造された唯一無二の戦闘用人工知能だからである。

「へへっ、未来がそうなるのかもしれねえ、って少し悲観的に話をしただけのことだ。気にすんな。別に全てが悪い方向になっちまうとは限らねえよ」

 正太郎は言葉を切ると、目の前に横たわっている赤いフェイズウォーカーの腕の残骸を拾い上げた。それは何ともケバケバしい胸の奥底をえぐるような派手な色をした機体である。

「まるで人間の血が沁み込んだみてえなおぞましい色だな……」

 機体の表面からは、そんなおどろおどろしさが感じられる。

「兄貴ぃ。何だかその腕……誰かの寂しさがたくさん訴えかけて来ているみたいだね」

「やっぱりお前もそう思うか? こう言っちゃなんだが、コイツをじっと見つめているだけで、こっちもついナーバスな気持ちに憑りつかれちまったみてえになる」

 正太郎はもはや驚かなかった。烈太郎が、他の人工知能とはかけ離れた感受性を表現しているところを。そして、赤いフェイズウォーカーの無機質な腕から垣間見られる感傷的な共鳴を。

「こりゃあ、ただの機械じゃねえな。何か、この金属片の一つ一つにあらゆる何かが詰め込まれているみてえだ……」

「うん、兄貴の言うことオイラにも分かるよ。そういう言い方、オイラは得意じゃないけれど、まるでこの腕の破片には、たくさんの数えきれない人たちの魂が宿り続けているみたいに……」

「いいや、有り得ねえ話じゃねえ。今までの俺の経験してきたことから見ても、こういった常識はずれな事象はこの指の数以上に存在した。今さら頭ごなしに否定することなんざ出来やしねえぜ」

 正太郎は、首から下げたペンダントトップを握りしめ言った。あのアイシャが永遠に眠る真球に向けて。

 するとその時である――

「兄貴!! 前方一時の方向に敵反応!! 空間の裂け目が来るよ!!」

「ああ、性懲りもなくお出でなすったか!」

「うわあ! 兄貴、ヤバいよ! 今度は裂け目がいっぺんに百七か所も!!」

「な、なんだと!?」



 

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