神々の旗印110


「兄貴の存在を知らなかった?」

「ああ、俺の存在を知らなかった。……というよりも、そいつは俺の存在を知らされていなかったと言うのが正しいのかもしれねえな」

 正太郎は、あの影の存在とも言える刺客が、戸惑い反面、何か躊躇ためらっていたことを感じ取っていた。

「奴は根っからの凄まじい腕を持った刺客だった。なのに、そんな刺客が一瞬だけ動揺を見せた瞬間があったんだ。俺はその後で考えた。きっとあれは、この俺という存在を目の当たりにしてどうして良いのか分からなくなったんだと。そして、俺の存在を消すように命じた奴に何も聞かされていなかったんだと」

 あの洞窟の一件で、エナ・リックバルトは影の存在たる刺客に不意を突かれ重傷を負った。そんな彼女は、なぜいきなり命を狙われなければならなかったのか?

 それはつまり、彼女が正太郎に余計な情報を与えようとしてしまっていたからに過ぎない。

 そして、その余計な情報とは何か? 

 それは正に、彼女が刺されて意識混濁する前に放った内容なのである。

「なあ烈よ。エナはな、刺客に刺される寸前にこう言ったんだ。この今の俺の肉体は、別の宇宙で養殖されたもう一人の俺の肉体を融合させて再生させたんだと……」

「ええっ、そ、それって本当なの、兄貴ぃ!? じゃ、じゃあ、今の兄貴の体の半分は、その養殖された別の兄貴の体って事なの!?」

「ああ、本当にエナの言う通りならな。そしてな、烈……。そう言った別の宇宙を自在に操れる存在が居るとエナは言ったんだ。そいつがエナを殺すように命じた……」

「ということは、そいつがもしかするとあのペルゼデールっていう奴なんだね」

「いかにもそうだ、烈。そう考えれば辻褄が合う。そしてその正体を言わんとした瞬間にエナは刺されたんだ」

「じゃ、じゃあ……もしかして、兄貴!? ペルゼデールとか言う奴は、兄貴に正体がばれたくないからエナちゃんをあんな目に遭わせたんだね!?」

「そういうことだ。奴は、おのれの願望を叶えるためだけにエナを利用した。そして、邪魔になった瞬間に彼女を地の底に葬ろうとした。あろうことか、この俺の目の前でな!!」

「ゆ、許せない!! 絶対に許せないよ、兄貴!!」

「ああ、俺もだ烈よ。俺は自分のことだけしか考えられねえ奴が一番嫌えなんだ。それが善か悪かとかではなく、個人的な意味でな……」

「ね、ねえ……兄貴? 兄貴は、そのペルゼデールとかいう奴に心当たりはあるの?」

 烈太郎は純粋に知りたかった。その陰から我々人類を操る存在を。そしてエナ・リックバルトを惑わした存在を。

 すると、

「へへっ、良い質問だな、烈よ。何となくだがそいつの顔が俺の頭の中に浮かび上がって来ているんだ。その始祖ペルゼデールとかいう仰々しいお冠を掲げて俺たち人類を惑わしまくっている奴の顔がな!!」


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