神々の旗印90


 ※※※


 勇斗はこの時、フランキスカⅤ型の体内で孤独を感じていた。サポート人工知能マーキュリーとは、まだ実戦を行った試しはない。幾度かキャンプ内施設のバーチャリティックシミュレーションをこなしたのみで、こういった喉の奥がジリジリする雰囲気の中で戦闘を行ったわけではない。

 彼らはこの森の中でたった一機のみであった。どうやら自分たちは、何らかの理由で小隊のみんなに置いてきぼりを食らってしまったらしい。苦肉の策で打ち出したまやかしの巡航速度もこうなって来ると、ただ虚しいだけでしかない。

「クロヅカ二等兵……。どうやらアタクシたち、こんな野蛮な森の中に取り残されてしまいましてヨ」

「わ、分かってる、分かっているよ……。だから、これからどうすればいいか、二人で一緒に考えよう」

「二人で……デスカ? モウ! もしこんな時、ご尊敬申しアゲテイル以前のお二方デアレバ、有無もイワサズ、黙ってこの俺に付いてコイ! の一言も仰っテマシテヨ?」

「な、なんだよ! マーキュリー、俺に喧嘩売ってんのかよ!? そんなにこの俺を見下して面白いかよ!? そんなに以前の騎士様とやらが恋しいのかよ!?」

「ソ、ソンナコト、アタクシは言っておりまセンワ! タダ、こう言った時ハ、パイロットであるアナタが女性をエスコートして安心させてくれませんと! それこそが紳士のたしなみというものデスワ!!」

「な、何言ってんだよ! こういった窮地に陥った時こそ、お前のようなサポート人工知能が何らかの解決策のヒントを差し出す場面じゃないか! それを何だよ、前の男がどうだとか何だとかネチネチネチネチと! 自分に都合が良いのも大概にしろよ!!」

「まあ、何ヲ仰いマスノ!? アナタ、よくそんな事デこの世界を生き残って来ラレましたワネ!? 人工知能であるアタクシは、あくまでもアナタのサポート役でアッテ、その行動の主導権を握るノハパイロットの役目なのデスワ! 何か勘違いヲしているのハ、アナタの方デハアリマセンカ!?」

「な、何だと!? 俺はいつも早雲と一緒だったけど、そんなことはなかったぞ! お前と違って早雲はあらゆる計算予測をして次の行動を良い方向に導いてくれた。お前のような投げやりでポンコツな示唆なんかありゃあしなかったよ!」

「マ、マァ、コレハ驚きましたデスワ! それは酷く勘違いナサッテオらレマスわ! ソレハきっと、あの早雲さんがトテモ優秀過ぎてアナタという存在を甘やかシテしまっていたのデスワ! アタクシ達サポート人工知能は、パイロットの出来不出来や性格に反映されて育ちますカラネ!! キット、早雲さんはそういうアナタに相対的に反映サレテ、アナタを過剰なマデニサポートしていたのだと考えられマスワ!!」

「な、なんだと!?  嘘だ! そんな事はない!! そんな事実なんか聞いたことがない! マーキュリー!! お前、いい加減なことを言うな!!」


  

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